Norihiko Shirouzu Nathan Gomes Akash Sriram

[15日 ロイター] - 電気自動車(EV)市場の低迷に直面している米国の自動車・電池メーカーが、電池工場を改造し、AI(人工知能)向けの電力需要に応えるエネルギー貯蔵システム(ESS)製造に転用しようと奔走している。しかし生産ラインの変更は容易ではなく、エネルギー貯蔵の需要もEV電池工場の余剰スペースを吸収できるほど速やかには拡大しない見通しだ。

電力とエネルギー貯蔵需要の急増は、米ゼネラル・モーターズ(GM)や米フォード・モーター、パナソニックホールディングス、韓国のサムスンSDI、LGエナジーソリューション(LGES)といった電池を手掛ける企業にとって絶好のタイミングで訪れた。これらの企業は過去10年間、米国のEV市場拡大を見込んで1000億ドル以上の資金を投入、あるいは投入を計画してきたが、化石燃料を優遇するトランプ米政権の政策によってEV市場は打ち砕かれた。

定置型のESSはEV用に似たリチウムイオン電池を使用し、太陽光や風力などで発電した電力を蓄え、需要のピーク時や送電網の負荷が高い時に放出するシステム。米国では、膨大な電力を消費するデータセンターやクラウドコンピューティング用などの需要が拡大するとみられる。

しかしロイターの分析により、予測されるエネルギー貯蔵ブームは、EV電池の需要崩壊を補う規模には到底及ばないことが分かった。米国のEV需要はもともとメーカーの予測を下回っていたところに、2025年9月30日には7500ドルの購入者向け税額控除が打ち切られ、販売台数は過去6カ月で25%以上も落ち込んだ。

多くのESSが採用する電池化学設計へと工場を転換するには、時間と費用がかかるだけでなく、現在は中国が支配している技術に踏み込む必要が生じる。

韓国LGESの北米責任者、ボブ・リー氏は、北米にある3つの工場をESS向けに転換していると明かした。米国の電池事業は、EV不況の余波で今後も過剰設備を抱え続けるだろうと話す。

フォードは今後2年間で20億ドルを投じて蓄電部門を設立し、「多様化され収益性の高い新たな収益源を創出する」としている。またGMとLGESの合弁会社であるアルティウム・セルズは先月、テネシー州のEV電池工場を蓄電用のセル工場に転換すると発表した。

<工場改造は複雑で高コスト>

コンサルティング会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスによると、北米の定置型電池の需要は今年76ギガワット時(GWh)に達する見込みだ。しかし、自動車業界がEV電池に大規模投資を行った結果、工場の余剰スペースは約275GWh相当と、それを大きく上回っている。蓄電需要は今後5年間で125GWhへとほぼ倍増する見通しだが、それでもEV電池の余剰生産能力を吸収するには不十分だ。

大半のESSが利用する「リン酸鉄リチウムイオン(LFP)」電池は、北米のEV電池で主流のニッケル系電池よりも安価だ。工場をLFP仕様に切り替えるには、最長18カ月の期間と数億ドルの費用がかかると電池メーカー幹部らは言う。

また米電池メーカーにとっては、中国がLFPの技術とサプライチェーンを支配している点も問題を複雑にしている。電池の国内生産を促進するためにバイデン政権下で導入された税額控除はトランプ政権下でも継続されており、ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの調査責任者イオラ・ヒューズ氏によると、メーカーはこの適用資格を満たすために中国製資材への依存度を下げようとしている。税控除をフルで享受するには、今後数年で中国製資材を段階的に排除しなければならない。

貿易障壁も問題だ。ベンチマークによると、正極材や負極材など中国製電池資材に対する米国の関税は35%に達している。

<テスラが先行>

米メーカーによるESSシフトは、ここ数カ月で加速している。

GMとLGESの合弁会社は3月、テネシー州ナッシュビル南部の工場で蓄電池セルを製造するため、7000万ドルを投じて従業員の再教育を行うと発表した。フォードも12月、ケンタッキー州の未活用工場の一部を蓄電池向けに転用することを明らかにした。

老舗自動車メーカーはEV大手テスラの背中を追っている状態だ。テスラは約10年前からESS事業を育成しており、今では同社で最も急成長している部門の一つとなった。昨年の粗利益率を見ると、EV事業が規制クレジットによる利益を除くベースで約15%だったのに対し、ESS部門は30%に達した。

テスラの大型蓄電池「メガパック」の導入は急増しており、昨年はイーロン・マスク氏のAI企業「xAI」への販売額が4億3000万ドルに達した。AIデータセンター需要が蓄電池受注に直接結びついていることを示す好例だ。

テスラの元幹部で、現在はGMの電池責任者を務めるカート・ケルティ氏は1月、ロイターに対し、米国の電池製造事業とサプライチェーンの構築に注力するとし、それがEV向けかESS向けかは「大きな問題ではない」と述べた。

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