ある女性の作家生命が、事実上断たれた。去る3月半ば、世界有数の出版社アシェットは声明を発し、4月にアメリカで発売予定だったミア・バラードのホラー小説『シャイガール』の刊行を取りやめ、既に発売されている英国版の在庫も破棄するとした。なぜか? そこにAI(人工知能)がいたからだ。

噂は1月頃(もしかするともっと早く)からあった。読書系のウェブサイトに、『シャイガール』の文体が妙にチャットGPTっぽいという投稿がいくつも出た。

極め付きは、愛書家ユーチューバー「フランキーの本棚」が公開した3時間近い動画。あの小説全体を徹底的に解析して、sharpとかの同じ単語が執拗に繰り返されるなど、その書き方や文体にAI生成文の特徴がたくさん認められると指摘した。やがてそれが米紙ニューヨーク・タイムズの目に留まり、同紙は独自の検証を経て、やはり『シャイガール』にはAI使用の痕跡が多々あると結論した。

これを受けてアシェットは同書の米国発売を断念し、他国での販売もしないと決めた。AIの使用を理由に大手出版社が自社の書籍の発売を中止したのはこれが初めてだ。

なお著者バラード自身は多くを語らず、知人に編集を依頼した際、その人物が作業にAIを使った可能性は否定できないとしている。

出版界に、そして作家(筆者もその端くれだ)にとっては大きな問題だ。もちろん怒っている人が多い。AIの侵略が読者にとっても作家にとっても脅威なのは間違いない。でも、そもそもAIの書いた文章っていうのはどんな感じなのだろう?

私は裏ルートを通じて、もう販売されていない『シャイガール』を手に入れ、実際に読んでみた。自分もアシェットの人たちと同様にだまされるかどうか、確かめたかった。一方で、どうしてこんなことが起きてしまったのかを知りたい思いもあった。

出版界には以前から、いずれこういう問題が起きると警鐘を鳴らす人がたくさんいた。でも、そう確信を持って言えたのはなぜ? 疑問を解き明かすため、私は出版業界のいろんな人に話を聞いた。

作家で評論家のエミリー・C・ヒューズは、最初に『シャイガール』を読んだとき、「悪くない」と思ったと言う。すごくはないが、まあ合格点だと。そしてAI使用疑惑が浮上してからは、なぜ自分が先に気付けなかったのかという問いに向き合ってきた。

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