その上海の青年は私にこんな感動的な話もしてくれた。

「ここの人は表面的に卑しく、粗野に見えますが、実際には心がとても優しいです。

ある日、作業中に木の柱が私の頭上から落ちてきたことがありました。隣にいた日雇いのおじさんが駆け寄り、自分の腕で木の柱を防いでくれたおかげで私は怪我をせずに済みました。しかし、彼の腕には大きな血豆が出来てしまいました。

私は申し訳なく思いましたが、彼は気にする様子もなくナイフで血豆を切り、血を出した後も何事もなかったかのように作業を続けました。

一部の日雇いおじさんたちが、私が上海に帰ることを知り、30万円を集めてくれたこともあります」

この上海の青年と話しているところに、雇い主が来た。花柄の背広を着て、丸刈りにし、サングラスをかけている。いかにも暴力団のメンバーのような格好だ。おそらく彼は「金町一家」に属しているのだろう。

彼が上海の青年に挨拶し、500円を渡すのを見た。青年によれば、これは特別な交通手当だそうだ。しばらくして、労働者を乗せるマイクロバスが到着し、その上海の青年は私に手を振って、他の労働者と一緒に車に潜り込んだ。

朝7時になると、仕事を見つけられなかった日雇い労働者たちが次々と去っていった。

彼らの代わりに、一般の通勤のサラリーマンたちが現れ始めた。

山谷は普通の街のようになっていったが、6、7人の中国人就学生が諦めずそこに立って最後のチャンスを待ち望んでいるのを見た。

その中の1人は私に、「もう3日連続で仕事を見つけていない」と言った。

どうやら、お金を稼ぐのはどこにいても容易ではないようだ。

(編集協力:中川弘子)
[筆者] 趙海成(チャオ・ハイチェン) 1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。
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