<日本政府は何も価値観をアピールせず、実利に徹した協力を優先させる方が途上国・新興国を惹きつける力になる。中ロのように相手国の政府のみをパートナーと捉えるのでもなく、市民生活に重点を置いた支援に注力すべきだ>


・日本政府は途上国・新興国とG7の橋渡しをする方針である。

・しかし、民主主義や人権といった価値観を強調するだけでは橋渡しは難しく、むしろ価値中立的なゴール設定が途上国・新興国へのアピールになる。

・その場合の一つの方策は、貧困対策など一般の人々の生活支援に力を入れることで、中ロと差別化を図ることである。

「G7とグローバル・サウスの橋渡しをする」と岸田文雄首相は強調するが、その目的を達成するなら民主主義よりプラグマティズム(実用主義や実際主義と訳される)を優先させるべきだろう。

民主主義の限界

ウクライナ戦争や台湾危機を念頭に、朝比奈一郎氏はG7広島サミットで日本政府が「緩い民主主義」をアピールすべきと論じる。欧米のように「上から目線で」民主主義を説くのではなく、多くの人が合意できる日本式のやり方で途上国・新興国の納得感を得るべき、というのだ。

歴史を振り返ると、欧米で民主主義が発達したことは間違いないが、欧米が民主主義を政治的に利用してきたこともまた確かだ。

冷戦終結後、人権や民主化を理由に途上国向け援助を停止することは増えたが、欧米と外交関係のよい国の問題はスルーしがちといったダブルスタンダードは珍しくない。

だからこそ、欧米とりわけアメリカが中ロを念頭に「民主主義vs権威主義」のイメージをいくら強調しても、途上国・新興国からシラけた反応が珍しくないのは不思議でない。

これに対して、その良し悪しはともかく、日本政府はこれまで外国の内政に立ち入ることが稀で、人権や民主主義を強調することもほとんどなかった。

だとすると、朝比奈氏の論考は実態に即した、冷静で建設的な議論として傾聴すべきだろう。

沈黙は金

ただし、あえていうなら、筆者はむしろ日本政府が何も価値観をアピールしないことを推奨する。何らかのイデオロギーを打ち出すより、実利に徹したプラグマティズムを優先させる方が、よほど途上国・新興国を惹きつける力になると考えられるからだ。

そのヒントは、なぜ中ロが途上国・新興国で勢力を伸ばしてきたかにある。

中ロの勢力拡大に関してよく言われるのは「中国の資金力、ロシアの軍事力」だが、それは事実の一端に過ぎない。

無視できないのは、中ロが基本的にイデオロギーを打ち出さず、これがかえって価値観'過剰'な欧米に辟易していた途上国・新興国で受け入れられやすかったことだ。

人権や民主主義の説教は逆効果
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