ドリスの乗るアメリカ車はスピードメーターが機能しない。鎖国政策下では国際競争にさらされないため、品質の低下が避けられないからだ。ラジオではこの政策について意見を聞かれた共和党支持者が「本物のアメリカ人のためにアメリカの雇用を守る政策だ」とわめいていた。

本物のアメリカ人って白人のアメリカ人のこと? かつては誰でもアメリカ人になれたが、今ではアメリカ人か非アメリカ人かが厳しく問われる。ドリスはアジア系だ。まるで日系人が強制収容された第2次大戦中に逆戻りしたようだ......。

ラジオからは大統領の声が聞こえる。「閉鎖した国境の向こうを見るがいい。何もかも狂っている。いかれた国々と付き合う必要はない。あなたを守るのはアメリカだけだ!」

ドリスは家の前に車を止めた。自由が失われていくなか、人々は内向きになっている。政治や社会への関心を失い、デジタル世界に引きこもっている。自分で選択し、新たな課題に挑戦して、可能性を広げる――そんな試みは今や過去のもの。

夕食後ドリスは夫とネットフリックス配信のファンタジードラマを見ることにした。その題名は『国境を越えて――夢の売り買い』だ。

<2020年9月1日号「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集より>

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皮肉は意図していないときに一番効く――スーパーマーケットへと車を走らせながら、ドリスは思った。今ではこの文句はある意味当たっている。大統領が宣言した「オンリー・アメリカ(アメリカだけ)」政策の下、外国製品の輸入は禁止され、アメリカはあらゆる同盟から離脱した。

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