黒人はなぜ水泳が苦手なのか

2018年8月29日(水)16時00分
ベンジャミン・フィアナウ

<黒人の子供たち向けの水泳教室で偏見を打破するメダリストの挑戦>

オリンピック選手が子供向けのワークショップや教室を開くのは珍しくないが、アメリカの競泳金メダリスト、カレン・ジョーンズがこのほど水泳教室を始めた理由は少し違う。黒人の子供たちに水泳を教えることで、「黒人は水泳をやらない」という世間の思い込みを打破しようとしているのだ。

米ABCテレビに出演したジョーンズは、子供も親も水泳を習うことに及び腰になる「一番の理由は恐怖心だ」と述べるとともに、歴史的に見てプールがいかに「人種差別的な場所」だったかについて語った。ジョーンズによれば、黒人がプールや海水浴場を怖がるのは、泳ぐのが苦手だというだけでなく、自分たちがどう扱われるか不安に思うことが多いからだという。

米自由人権協会(ACLU)の人種的正義プログラムの責任者を務めるデニス・パーカーもABCに対し、「(プールや海水浴場での)有色人種に対する排斥の歴史があった。プールで黒人が白人に暴力を振るわれたこともある」と述べた。パーカーによれば、白人には黒人は汚いとか不衛生だといった思い込みがあり、それが全米各地のプールでのあからさまな人種差別につながっているという。

また、親からなかなか泳ぎを教わることのできない有色人種の子供たちにとって、水泳教室は水難事故防止にも役立つとジョーンズは言う。

17年の米水泳財団の研究によれば、アフリカ系アメリカ人の子供の64%、ヒスパニックの子供の45%が「ほとんどもしくは全く」泳げないという。同財団によれば、アメリカで1年間に溺れて亡くなる子供の数は2010年以降、減少しているが、それでも溺死は14歳未満の子供の不慮の事故死の原因の第2位になっている。

また米疾病対策センター(CDC)によれば、黒人の子供たちが溺死する率は、同年代の白人の子供の3倍近いという。

「今も全米で1日に約10人が溺死している。(でも)簡単な対策がある。水泳のレッスンだ」とジョーンズは言う。「オリンピック選手を育てようというのではない。もちろんそういうことが起きる可能性もないとは言えないが。大切なのは泳ぎ方を学ぶこと、そして水のそばで安全に過ごせることだ」

<本誌2018年8月26日号掲載>

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