
ドイツの街角から
「湖、劇場、そして再生」 静けさと躍動が共存する街ハノーファーが見せる多彩な顔
見本市都市として世界的に知られるドイツ中北部の街、ハノーファー。しかしこの街を歩いてみると、産業と技術の最前線を支える都市でありながら、静けさと創造性が溶け合うもう一つの表情に気づく。そこには、王国の栄華と戦後の再生、そして人々の穏やかな暮らしが重なり合っている。(画像はすべて筆者撮影)
静けさと躍動が共存する街ハノーファー
ニーダーザクセン州の州都ハノーファーは、ビジネス都市という印象が強い。だが街の魅力は展示会場の中だけにとどまらない。整然とした街路の間には緑があふれ、古い教会の鐘の音が響く。静けさの中に創造性が漂い、歴史と文化、自然が心地よく溶け合っているのがわかる。
第二次世界大戦後、荒廃した街を立て直すために始まった「ハノーファー・メッセ」は、いまや世界最大級の産業見本市へと成長した。IT関連展示会(CeBIT)や商用車ショー(IAA Transportation)なども開催され、ハノーファーは「技術と経済のハブ」としての地位を確立している。
市庁舎から湖へ、そして夜の劇場など市内を実際に歩くほどに見えてくるのは、この街の「静と動」が織りなす美しい調和だ。また、市の半分以上が公園や森林で占められており、動物園や公園など、自然と都市が調和する環境も整っている。
かつてハノーファー選帝侯領の中心地であり、18世紀にはイギリス王室と深く結びついていた。ジョージ1世が1714年に英国王に即位し、「ハノーファー朝」が始まり、かつて英国とドイツを結んだ王家の故郷でもあるのだ。
その面影は、前回紹介した市中心部にあるヘレンハウゼン庭園に残る。バロック様式の幾何学的なデザインの庭園を歩けば、18世紀の優雅な気配を体感できるだろう。
街の中心に広がるマシュ湖は、シュプレンゲル美術館から歩いて行ける市民や観光客の憩いの場。南北に長く伸びた人口湖で、夏にはボート、冬には氷上散歩も楽しめる。
再生のシンボル「新市庁舎」が語るもの
第二次世界大戦で市の大部分は破壊されたが、戦後の再建計画により、ハノーファーは近代都市として生まれ変わった。都市計画家ルドルフ・ヒレブレヒトが導入した機能的で交通効率のよい街づくりは、後のドイツ都市計画の模範となった。
まず街の象徴でもある新市庁舎へ向かった。外観はまるで城のようで、赤い屋根と壮麗なドームが印象的だ。1913年に完成したネオルネサンス様式の建物だが、第二次世界大戦で被害を受けた後、見事に再建された。ロビーに並ぶ4つの都市模型「戦前、戦後の瓦礫、再建期、そして現代のハノーファー」を見比べると、この街が歩んできた再生の歴史が一目でわかる。
市庁舎の塔には、ヨーロッパでも珍しい傾斜式エレベーターがあり、建物上部の展望エリアに行ける。残念ながら今回は天候と混雑で行けなかったが、いつか再訪し、約100メートルの高さからこの街を一望したい。
旧市街へ

- シュピッツナーゲル典子
 ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko



