
ドイツの街角から
「湖、劇場、そして再生」 静けさと躍動が共存する街ハノーファーが見せる多彩な顔
落ち着きと創造の調和が魅力の旧市街
同じく第二次世界大戦で激しい爆撃を受けた広島は、1983年にハノーファーと姉妹都市提携を結び、戦争の記憶を共有しながら平和と交流を育んできた。
新市庁舎からほど近い場所にある慰霊教会跡(アイギディエン教会跡)は、戦争の惨禍を伝える記念教会として、あえて廃墟のまま保存されている。ここには、1985年に広島平和記念聖堂から贈られた鐘もある。
さらに旧市街へ向かった。石畳の通りにはカフェやブティックが並び、マーケット教会の前では、音楽学生がチェロを奏で、その音色が赤レンガの壁に柔らかく反響していた。
広場のベンチで昼食をとる会社員、トラムを待ちながら新聞を読む年配の男性、花束を抱えて歩く若い女性など、ハノーファーは国際都市でありながら、せわしなさよりも「余白」のある都市だ。経済と文化、日常と静寂が自然に共存しつつ、人々が自分のリズムで生きていると思った。
ニーダーザクセン州最大の湖シュタインフーデ湖へ
市中心部から列車で約30分の郊外に広がるシュタインフーデ湖は、ニーダーザクセン州最大の湖だ。北ドイツの平原に広がる穏やかな水面は、空を鏡のように映し出していた。
湖畔の小さな街シュタインフーデは、木組みの家並みが続く可愛らしい漁村。燻製ウナギや魚介類を目当てに訪れる客も多い。桟橋ではヨットやカヌーの愛好家が準備をし、観光客はアイスを片手に散策していた。都会からわずか30キロとは思えないほど、時間の流れがゆるやかだ。
湖の中央には人工島「ヴィルヘルムシュタイン島」が浮かび、18世紀に建てられた要塞が残る。かつてハノーファー選帝侯国の軍事訓練場だった場所も、今ではボートで渡れる観光スポット。
水面に映る空と雲を眺めながら、ハノーファーのもう一つの顔「自然と歴史の共演」を体験した。
夜の華エンターテインメント劇場へ
夕方、街がゆっくりと灯り始める市内に戻った。夕食を済ませ、エンターテインメント劇場として有名な「GOP Varieté-Theater Hannover」へ。伝統あるこの劇場は、ミュンヘンやブレーメンなどドイツ国内に7カ所もあるそうだ。アクロバットやダンス、音楽、コメディが融合するショーが上演され、いつも大きな賑わいを見せている。大人向けだけでなく、これからの季節クリスマスや新年には子供向けのミュージカルも上演する。
この夜の演目は、光と音が織りなす舞台で空中ブランコやジャグリングが次々と展開された。身体能力の極限を見せる演者たちの動きは、息をのむほど美しく洗練され、同時に人間の創造性そのものを感じさせた。
老若男女が笑い、驚き、心から舞台を楽しみ、拍手が絶えない。劇場を貸し切って結婚式や誕生日パーティ、ビジネスイベントにも利用できる。劇場の他、レストラン・バーも提供。ハノーファーの夜には、こんなにも生き生きとしたエネルギーがあり、人々がいかにライブアートを日常に取り組んでいるかを実感した時間だった。
都市と自然、静と動の共鳴
ハノーファーで過ごした数日は、静けさと躍動が交互に現れるリズムのようだった。城のような市庁舎、湖畔の光、そして劇場のきらめき。どれも異なる表情を持ちながら、どこか共通して「調和」という言葉にたどり着く。
大都市でありながら、人と自然、仕事と余暇、伝統と現代が無理なく共存する街ハノーファー。シュタインフーデ湖で感じた静寂も、劇場で味わった高揚も、同じ都市の呼吸の一部。古いものと新しいものが、静かに手を取り合って生きている、その穏やかな風景こそが、この街の本当の魅力なのだと思う。
取材協力

- シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko


