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人種差別に移民の葛藤... 英エンタメ界はなぜ「気まずい」テーマでヒットドラマを連発するのか

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2022年4月22日(金)14時30分
ラッシャー貴子(ロンドン在住ライター、翻訳者)

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英国アカデミー賞6ノミネートの青春音楽コメディ © WTTV Limited 2021. ALL RIGHTS RESERVED.

バンドメンバーの5人は同じイスラム教徒でありながら、パキスタン系、アフリカ系などルーツは異なる。ヒジャブ(髪を覆うスカーフ)やニカブ(目以外を隠すベール)などファッションも全員違っていて、ボーカルのサイラに至ってはムスリムを象徴する服装を何もまとっていない。家庭や個人で違いがある上、初めに挙げたように、移民の親子は育つ環境の違いから感覚がずれてしまうことも多い。ドラマの中で主人公アミーナの両親は理解があったが、サイラは家族とほぼ絶縁状態だ。筆者の友人の例は、2人の間ぐらいになるだろうか。

ロンドンに暮らしていると、ヒジャブをつけた女性を毎日のように見かける。外で働く人も多いし、リッチなアラブ系なら高級デパートのハロッズあたりで買い物三昧を楽しんでいる。ヒジャブと耳の間にスマホを挟んで手を使わずに電話で話す姿を初めて見た時にはとにかく驚いた。

作品に登場する彼女たちもたくましく、はつらつと生きている。自分が持っていたイメージとのギャップに驚くことで、視聴者は自らの色眼鏡を強く意識することになる。

監督・脚本のニダ・マンズールは、自身も英国生まれのパキスタン系ムスリム女性だ。映画の世界ではマイノリティの監督はまだ少数と言われている。彼女や『スモール・アックス』のマックイーン監督(英国出身グレナダ系黒人)が自らのバックグラウンドを作品化しているのは、マイノリティの実情により迫ることのできる貴重な機会だ。

【予告編】英国アカデミー賞6ノミネート『絶叫パンクス レディパーツ!』

パンデミック、ウクライナ難民を予言した『2034 今そこにある未来』に垣間見る「英国らしさ」


社会派ドラマの中には現実との境界を曖昧にしてしまう作品もある。2019年に発表され、政治的な理由から中国で放送禁止になったことでも知られる『2034 今そこにある未来』がそれだ。コロナ禍前の制作にもかかわらず、猛威をふるう感染症の存在やウクライナ難民の問題が矢継ぎ早に繰り出され、ディストピアドラマとして話題になった。

難民であるパートナー救出に命を懸けるダニエル役にはゲイを公表しているラッセル・トーヴィー、身体障害のあるシングルマザーのロージー役には実生活でも車椅子を使う女優ルース・マデリーが出演するなど、配役にも多様性が反映されている。

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EU離脱後15年間の英社会で起こり得る出来事を描く超過激な問題作。米ワシントンポスト紙、英ガーディアン紙も賞賛 (c) Years and Years Limited 2019

ドラマでは、今日の世界情勢の延長線上で起こり得る幾多の困難に巻き込まれていく平凡な家庭が描かれる。この家族には、同性婚、シングルマザー、身体障害、人種の違いなどが少し大げさなほど詰め込まれており、「多様性を受け入れなければ」と頑なに考える現代社会への自虐かパロディーのようにも感じられる。深刻なストーリーの中に、怖いのか笑っていいのか微妙なシーンが混じっているのが英国作品らしい。

この国では家庭でも学校でも、幼い頃から自分の意見を持つよう促される。子供向けの映画を見た親戚の8歳の女の子が、「テーマが感じられなかった」と言ったりするのだ。また違う意見に遭遇しても、自分の考えを簡単に曲げないまま相手も尊重するよう訓練されているとも感じる。自分をどこか俯瞰して見るブラックユーモアや自虐の精神は、日頃から他者と一線を画して自らを保っているところにも源があるのかもしれない。

【予告編】風刺たっぷりのディストピアドラマ『2034 今そこにある未来』

「危うさ」を直視する『ランドスケーパーズ 秘密の庭』

昨年末に大きな注目を集めた『ランドスケーパーズ 秘密の庭』は、平凡に見える中年夫婦が妻の両親を殺害して裏庭に埋め、15年後に逮捕された実話に基づく幻想的なドラマだ。

今や英国を代表する女優のひとり、オリヴィア・コールマンが演じる妻のスーザンは、作品の中で何度も「危うい」と表現される。やがて彼女と夫の過去が明かされるにつれ、取り調べる立場の刑事までもが自身の内面を見つめ始める。

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