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ロシアに苦しめられ続けた、知られざるウクライナ政治30年史

SEEKING DEMOCRACY

2022年3月30日(水)13時05分
フェルナンド・カサル・ベルトア(ノッティンガム大学准教授)、ジョルト・エニエディ(セントラル・ヨーロピアン大学教授)

こうしてウクライナの領土に食い込んだロシアだったが、ウクライナの政党政治は正反対の方向に傾くことになった。

というのも、2014年5月の大統領選と10月の議会選では、実業家のペトロ・ポロシェンコ率いる新勢力が圧勝し、地域党は大統領選での得票率はわずか3%、議会選では150議席以上を失ったのだ。

親ロシア的な地域の一部が事実上分離したため、ウクライナ国政における親ロシア派の影響力は急低下した。

この2014年以降のウクライナ政党政治の第3期は、右派も限定的な支持しか得られなかった。

2019年の大統領選と議会選挙では、腐敗一掃を唱える俳優ウォロディミル・ゼレンスキーの新しい中道政党「国民の公僕」が大きな勝利を収めた。

ウクライナはネオナチの巣窟だとプーチンは言うが、ウクライナの人々は極右を拒絶し、穏健で現実的な政治勢力を支持したのだ。

とはいえ、腐敗一掃を主張してアマチュア政治家が登場する構図は、多くの旧ソ連諸国に見られるパターンで、その人気は2~3年しか続かないことが多い。国民の公僕も、同じ道をたどるかに思われた。

だが、2021年の世論調査で、同党は右派と左派のどちらよりも支持率が高く、ウクライナにバランスの取れた民主主義が一段と定着するかに見えた。

それをプーチンが許すはずはなかった。その意味で、今回のウクライナ侵攻は、ロシアによる隣国の内政への大胆で継続的な介入の一例だ。

ウクライナの政治体制には多くの欠陥があるが、プーチンが全てを決定し、名ばかりの民主主義を名乗るロシアとは雲泥の差がある。そんなウクライナの民主主義がロシアにつぶされないことを願ってやまない。

From Foreign Policy Magazine

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