最新記事

教育

90年代以降に急増した博士号取得者に、活躍の場はあるか?

2021年8月25日(水)15時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
大学院生

90年代の法改正によって博士号授与者の数は急速に増加した Pompak Khunatorn/iStock.

<今や日本の人口の209人に1人いる「博士号」を取得した知的人材は、日本社会でどう活用されているのか>

「末は博士か大臣か」という言葉がある。将来有望な子どもが言われたことだが、学位令が公布された明治中期では、博士号学位は国の大臣と同じくらいの稀少性があった。だが時代とともに授与数は増え、年間1000、2000、1万となり、最近では毎年1万5000人ほどの博士が生まれている。

長年にかけてこれが累積し、今の日本社会にはどれほどの博士がいるのか。文科省の『博士・修士・専門職学位の学位授与状況』には、1957年4月からの学位授与数が出ている。生存している博士号保持者の近似数と見ていいだろう。それによると、①1957年4月から1991年6月までの授与数は17万5007、②1991年7月から2019年3月までの授与数は42万6583だ(時期が区分されているのは、法改正で学位の表記の仕方が変わったことによる)。合わせて60万1590人となる。

この数字については後で深めるとして、まず注視したいのは、1991年を境に授与数が大幅に増えていることだ。②のほうが時期としては短いにもかかわらず、博士号授与数は①の2.4倍に増えている。90年代以降、学位の表記法だけでなく性格も変わっている。かつては、博士号は学問の集大成の証だったが、近年では研究者の基礎ライセンスという位置付けになっている。そうした変化は人文・社会系で顕著で、大学院博士課程学生の学位取得率を昔と今で比べるとよく分かる<表1>。

data210825-chart01.jpg

文科省の資料には、博士課程修了生と単位取得満期退学者数(内数)が出ていて、前者から後者を引いた数が学位取得者となる。これを修了生数で割った取得者率でみると、この40年間で大幅に伸びている。人文科学は13.3%から47.5%、社会科学は14.7%から58.5%への増だ。

筆者の専攻の教育学は変化が大きく、1980年の学位取得者率は5.2%(取得者の実数はわずか5人)だったが、2020年では54.9%と10倍以上になっている。審査基準のあまりの変わりように戸惑い、大学院の指導教授が「今の博論なんて昔の修論だ」と言われていたのを思い出す。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

国内超長期債、増加幅半減へ 新規制対応にめど=大樹

ワールド

ブリンケン米国務長官の訪中、「歓迎」と中国外務省

ビジネス

連合の春闘賃上げ率、4次集計は5.20% 中小組合

ビジネス

元相場、基本的な安定維持目標は変わらず=人民銀副総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中