最新記事

ウイグル問題

ウイグルの悲劇が「集団虐殺」である十分な根拠はない:米国務省法律顧問室

NOT STRICTLY “GENOCIDE”

2021年4月2日(金)16時00分
コラム・リンチ(フォーリン・ポリシー誌外交問題担当)
ウイグル弾圧抗議デモ

ホワイトハウス前で抗議を行う女性(2020年8月) CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

<中国の行為を「ジェノサイド(集団虐殺)」に認定したバイデン政権。しかし米国務省の法的見解は「十分な根拠はない」。なぜ食い違いが生じるのか>

中国の行為は人道に対する罪に相当するものの、ジェノサイド(集団虐殺)であることを証明する十分な根拠は存在しない──。

新疆ウイグル自治区でのウイグル人の大量拘束や強制労働について、米国務省法律顧問室は今年初め、そう結論を下した。

この判断によって、トランプ前政権とバイデン現政権の双方が外交法律顧問側と対立状態に陥った。米政府の現役と元当局者3人が証言している。

マイク・ポンペオ前国務長官は退任間際の今年1月19日、中国で起きているウイグル人などのイスラム教徒弾圧はジェノサイドだと語った。ポンペオによるジェノサイド認定はバイデン政権も引き継いでいる。

一方、国務省法律顧問らが出した慎重な結論は、ジェノサイドが起きていないとするものではない。国務省の判断が示すのは、国籍、宗教、人種、または民族的アイデンティティーに基づく集団の「全部または一部」を破壊する行為であるジェノサイドの立証の難しさだ。

集団殺害罪についての一般的認識と、1948年に採択された集団殺害罪の防止および処罰に関する条約(ジェノサイド条約)における法的定義のずれも浮かび上がる。

同条約の定義を、国務省の法律顧問らは長年、ある集団の身体的・生物学的破壊を意図する行為と解釈してきた。

中国のウイグル人に対する処遇は恐るべきものであり、犯罪的だという見方は米政府内でほぼ一致している。問題は、新疆での中国の行為が集団殺害罪の極めて高い訴追基準を満たしているのか、という点だ。

「国際法廷は(ジェノサイド)条約の定義の範囲に入る犯罪について、対象集団を生物学的、または身体的に破壊する意図が加害者になくてはならないと決定している」

オバマ政権時代に国務省国際刑事司法室を率いたトッド・バックウォルドと、米国家安全保障会議(NSC)の元人道問題専門家アダム・キースはそう記している。

条約はジェノサイドとして5種類の行為を挙げる。1番目は集団構成員の殺害だ。同時に、集団内での出生の阻止を意図する措置などもジェノサイドに定められている。

ウイグル人弾圧をめぐる国務省の法的立場は、殺害という1番目のカテゴリーにこだわり過ぎ、ほかの種類の行為に十分な焦点を当てていないと、批判派は主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中