最新記事

中国

中国でホッキョクグマ・ホテル開業も、劣悪な待遇に世界がバッシング

2021年3月22日(月)15時50分
青葉やまと

各国から非難の声があがった「ホッキョクグマ・ホテル」...... The Animal Reader-YouTube

<中国・ハルビンに、絶滅危惧種のホッキョクグマを見世物にしたホテルが開業した。現地紙が「世界初」と大々的に報じる一方、海外から強い反感を買っている>

問題のホテルは中国北東部、ハルビン市郊外を流れる川の中洲に建設された。太陽島と名付けられたこの中洲は巨大な公園として整備されており、行楽地として人気だ。公園内の施設のひとつに、ハルビン極地館と呼ばれる水族館がある。ホッキョクグマ・ホテルは、この水族館に併設する形で3月12日にオープンした。

ホテルは一見、ファミリー層をターゲットにした楽しげな場所のようにも思える。ロビーはガラス張りの展望スペースとなっており、ホテル中央に設けられたホッキョクグマの展示スペースを望む。前面と足元の強化ガラス越しに、2頭のホッキョクグマが歩いたりプールで泳いだりしている様子を観察できる趣向だ。

客室もユニークだ。宿泊フロアは3階まであり、21室全室が展示スペースを囲むように設置されている。宿泊客は、いつでもホッキョクグマを見下ろし観察すことができるというわけだ。

中国共産党傘下のチャイナデイリー紙は開業に先駆け、ホテルについて誇らしげに報じている。「世界初のホッキョクグマ・ホテルが金曜、黒竜江省ハルビン市にオープンする。客たちは客室から強化ガラス越しにクマを見ることができる」「ホッキョクグマが常に付き添い、ホテルはユニークで忘れられない体験を宿泊客に提供する」と述べ、他に例を見ない宿泊体験を強調している。しかし華々しく伝える同紙をよそに、海外の報道機関は眉をひそめる。

愛護団体が警鐘 中国国内からも疑念の声

クマたちが長時間を過ごす展示スペースは、雪を模して白く塗っただけの床と小さなプールから成る簡素なものだ。四方から人間に見られながら、太陽の当たらない人工照明のみのこの空間で一日の大部分を過ごす。ホテル側によると屋外にもスペースがあり、客室に囲まれた屋内のスペースが全てではないという。しかし、外に出られるのは気候条件が揃ったときのみだ。

気候変動の影響で個体数が減少しているホッキョクグマは、国際自然保護連合によって絶滅危惧種に指定されている。希少な種を貧相な環境で飼育しているとあって、中国国外からホテルへの非難が殺到した。

動物擁護団体のPETAはロイターに対し、ホッキョクグマは北極にいるべき存在であり、ホテルで飼うなど言語道断だとの立場を表明している。米CNNも同じ内容を取り上げ、ホテルは満室となったが批判が集中していると報じた。

オーストラリアの大手ニュースサイト『ニュース・コム・エーユー』も、批判的な報道姿勢だ。PETAのコメントを取り上げ、「PETAは(ホテルの)顧客に対し、動物の不幸から利益を得るこのホテルと他のあらゆる施設から距離を置くように勧めます」との立場を伝えている。ホッキョクグマは本来1日18時間ほど活動的に過ごし、行動範囲は数千キロにも渡る。ガラスの囲いの中で飼育するのは適切でないとPETAは訴える。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、金利変更の選択肢残すべき リスクに対応=仏

ビジネス

ECBは年内利下げせず、バークレイズとBofAが予

ビジネス

ユーロ圏10月消費者物価、前年比+2.1%にやや減

ワールド

エクソン、第3四半期利益が予想上回る 生産増が原油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中