最新記事

少数民族弾圧

ウイグル女性に避妊器具や不妊手術を強制──中国政府の「断種」ジェノサイド

Genocidal Sterilization Plans

2020年7月8日(水)17時30分
エイドリアン・ゼンツ(共産主義犠牲者記念財団・中国研究上級フェロー)

magf200708_Uyghur2.jpg

実際には強制労働が行われているとされる労働教養所(ホータン、2018年) THOMAS PETER-REUTERS

気になるのは、ウイグル人地域の最新の出生率が公表されていないこと。ホータン地区は毎年3月か4月には人口動態の統計を発表していたが、今年は6月末時点で未発表だ。

収容の理由は産児制限違反

カシュガル地区は人口動態統計を公開し始めて以来初めて、今年は出生率と死亡率を発表していないが、前年と比べ人口は減っている。明らかに地区当局は何かを隠そうとしているのだ。自治区内のキルギス人地域であるクズルス・キルギス自治州は最近、今年の人口の自然増加率の目標を発表したが、あきれたことに目標がほぼゼロに抑えられていた。

文化大革命の混乱期でさえ、ほぼ一定していたウイグル人の出生率が急激に減り始めたのはなぜか。何らかの強制力が働いているとみていい。男たちが大量に収容されていることも出生率を下げる要因だろうが、それだけではここまで減らない。

公式文書のデータや文言を付き合わせると、当局による組織的な民族浄化の実態が見えてくる。そのやり方とは、少数民族の出生率を抑え込む一方で、漢族の労働者や入植者の大量流入を奨励する、というものだ。

漢族の当局者や学者は長年、新疆ウイグル自治区における「少数民族の人口の過剰な増加」を危惧してきた。ある学者はウイグル人の人口増加率が高いために自治区内の民族隔離が進み、「特定の民族集団が特定地域の占有権を主張するようになる」と警告している。そうした主張は「中華民族のアイデンティティーと国家の統合を弱め、統治と安定を揺さぶる」危険性があるというのだ。

とはいえ、産児制限を強制する当局の試みは必ずしも成功しなかった。潮目が変わったのは2017年だ。前年に自治区トップに就任した陳全国(チエン・チユエングオ)の方針でウイグル人の大量収容が実施され、強制の下地が整った。私の調査では、収容されたのは主に一家の家長だ。家長を連行すれば、当局は残った妻や娘に不妊手術を強制できる。

2月にリークされたホータン地区カラカシ県の文書「カラカシ・リスト」には収容された数百人の収容理由が書かれている。驚くことに最も多い理由は産児制限違反だ。それも自治区で定められた数より1人多く子供を儲けただけで収容されたケースが多い。また、産児制限違反が唯一の収容理由である人も多かった。

その一方で、中国では2016年に一人っ子政策が廃止され、人口増加を維持するため2人の子供を持つことが推奨されている。出生率を押し上げるために、税制上の優遇措置を講じたり、結婚や出産に奨励金を交付する省もある。

カラカシ・リストによると、産児制限違反を理由に収容されたウイグル人は、2018年春に急増している。ちょうどその頃、新疆ウイグル自治区の複数の地区で、産児制限違反を厳格に取り締まるルールが発表された。3つの県級市では、違反者は収容所に送られることを明記している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ、ウクライナ支援継続を強調 両首脳が電話会談

ワールド

トランプ米大統領、ハーバード大への補助金打ち切り示

ビジネス

シタデルがSECに規制要望書、24時間取引のリスク

ワールド

クルスク州に少数のウクライナ兵なお潜伏、奪還表明後
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中