最新記事

暴動

ドイツに暴動の伝播 政治的動機のない若者が商店が破壊、警察を襲う

2020年6月23日(火)17時10分
モーゲンスタン陽子

シュトゥットガルトで、数百人の若者が警察隊に襲いかかった...... Guardian News-YouTube

<ドイツ南西部の主要都市シュトゥットガルトで、若者の集いが暴動にエスカレート。数百人の若者が警察隊に襲いかかり、警官19人が負傷した......>

ドイツ南西部の主要都市シュトゥットガルトで20日深夜、大規模な暴動が発生し、目抜き通りの商店が破壊・略奪された。数百人の若者が警察隊に襲いかかり、警官19人が負傷、25人が逮捕された。背景に政治的な動機はないという。

また先週18日には北部ブレーメンで、ナイフを持ったモロッコ系の男性を警官が射殺。「行き過ぎた暴力ではないか」との声が高まり、警察が内部調査を開始している。

政治的動機のない若者の集まりが暴動にエスカレート

バーデン=ヴュルテンベルクの州都シュトゥットガルトにはポルシェやダイムラーなど世界的大企業の本社があり、経済的にも安定した都市だ。日本人住民も多い。20日の土曜日は気候も良く、街の中心部には多くの若者が集まっていた。ほとんどがティーンエイジャーや20代だった。BLM運動や対新型コロナ規制デモなどの政治的な集いではなく、ただ土曜の夜を楽しもうと集まった、たくさんの個人的なグループだった。

中央部の広場で警察が麻薬の取り締まりを始めると、少年が一人逃げ出した。それを見た他のグループの若者たちが次々に警官に襲いかかり、殴りつけたり、石や瓶などを投げつけたりした。最終的には500人近い若者が暴れ出し、次第に略奪行為に発展。ユニクロもあるメインショッピングストリートで、スポーツ店、宝石店、電気機器店など40店が破壊され、うち9店で略奪が行われた。

暴動現場には約280人の警官が動員されたが、うち19名がすぐに持ち場を離れなければならないほどの重傷を負ったという。警察の発表によると、16歳から33歳のドイツ、ポルトガル、イラク、クロアチア、ラトビアなどの国籍の若者25名が逮捕された。なかでも16歳の少年は、暴動を止めようとして殴られ地面に横たわっている学生の首を蹴った容疑で殺人未遂に問われる可能性があるという。

このような暴動はシュトゥットガルトでは近年起こったこともなく、住民はショックを隠せない様子だ。ほとんどの若者が酔っ払っており(ドイツでは10代から段階的に飲酒が許可されている)、行為がエスカレートしたようだ。SNSに動画をアップしたいだけという若者もいただろう。

しかし、いくら政治的動機はないといっても、ここまでの騒ぎになってしまった背景には、やはり現在アメリカで起こっている暴動の、絶え間なく流れてくるニュースの影響があるだろう。さらに、新型コロナ対策の長引く規制による鬱憤、そして先行きの見えない不安などが重なって、一気に爆発してしまったようだ。

だが、ストレスを受けているのは警察も同じだろう。メルケル首相は暴動を容認できるものではないとして非難、警察の対応を讃えた。今回の暴動を受け、シュトゥットガルト警察は屋外でのアルコール禁止や、深夜の外出禁止令などの措置の検討を求めている。

【話題の記事】
「ドイツの黒人はドイツ人とは認められない」 ベルリンで起きた共感のデモ
ヒトの老化は、34歳、60歳、78歳で急激に進むことがわかった

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中