最新記事

新型コロナウイルス

「国家存亡に関わる」金正恩、新型肺炎で「体制崩壊」の危機

2020年2月4日(火)16時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

金正恩政権は、経済制裁による経済難で乱れた治安を恐怖政治で抑え込もうとしているが…… KCNA-REUTERS

<中国との貿易を全面的に一時停止する措置を取った北朝鮮、ウイルスが広がれば現体制そのものを脅かしかねないという危惧が>

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は1月30日、中国・武漢を中心に感染が拡大中の新型コロナウイルスによる肺炎を巡り、「新型コロナウイルス感染症の危険性がなくなる時まで衛生防疫システムを国家非常防疫システムに転換する」と伝えた。

また、同通信は別の記事で「各指揮部では国境、港湾、飛行場などの国境通過地点において検査検疫事業により徹底的に取り組み、外国出張者や住民に対する医学的監視と検病検診をもれなく進めている」と伝えた。

公開処刑を活発化

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)が英国およびインド外務省の情報として伝えたところでは、「平壌と中国の北京・遼寧省・瀋陽などの間を行き来する高麗航空の往復路線や、北京と丹東地域などを結ぶ国際列車などがストップすることになった」という。北朝鮮は、2014年の「エボラ出血熱流行」と2003年の「SARS(重症急性呼吸器症候群)流行」の際も平壌と北京を結ぶ航空路線を止めた。

一方、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、北朝鮮が1月28日から中国との貿易を全面的に一時停止する措置を取ったと、伝えている。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋はRFAに対し、「もし中国の武漢のようにウイルスが(北)朝鮮に広がれば、防疫体制がしっかりしておらず、医薬品も不足しているわが国は、死の恐怖に包まれざるを得ない。感染した住民が集団で倒れでもしたら、金正恩体制そのものが大きく脅かされる」と語っている。

ただ、対外貿易の9割以上を中国に依存する北朝鮮にとって、中朝貿易の一時停止は体制を土台から揺るがしかねないリスクを秘めている。そうでなくとも北朝鮮当局は、一昨年の末頃から公開処刑を活発化させている。経済制裁の影響による経済難で乱れた治安を、恐怖政治で抑え込む意図があるものと思われる。

<参考記事:「わが国に入ってきたら終わり」北朝鮮国民、新型肺炎に震撼

<参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

だが、新型肺炎による混乱が重なれば、国民の意識にどのような変化が生じるかわからない。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1月29日、新型肺炎への対策は「国家存亡に関わる重大な政治的問題」であるとする記事を掲載したが、この表現は決してオーバーなものではないのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易戦争緩和への取り組み協議

ワールド

米、台湾・南シナ海での衝突回避に同盟国に負担増要請

ビジネス

モルガンSも米利下げ予想、12月に0.25% 据え

ワールド

トランプ氏に「FIFA平和賞」、W杯抽選会で発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 4
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中