最新記事

嫌韓の心理学

保守がネット右翼と合体し、いなくなってしまった理由(古谷経衡)

THE COLLAPSE OF THE CONSERVATIVES

2019年10月11日(金)18時10分
古谷経衡(文筆家)

最後に、私は、物書きとして2000年代後半から10年代初頭までの7年ほど、この保守業界に身を置いていた。保守と言うのなら、エドマンド・バークや福田恆存や小林秀雄の思想を読み込んでいる人ばかりだと思ったが、当時から全く違った。医師や公認会計士、税理士、企業経営者といった(特に医師が多かったが)社会的に地位のある人が根拠なしに隣国と隣国人を差別する。「正論を言い続ければ、いずれヘイトはなくなる」と思っていたが甘かった。彼らは基本的に学習しないし、虫食い状の歴史知識を正統的な学問や先行研究から穴埋めしようという努力も一切しない。韓国が韓国が、というわりに韓国に行ったことが一度もない。

いまだ日韓併合は合法で日本は朝鮮を植民地支配していない、というオカルト雑誌でも取り上げないトンデモ説をかたくなに信じて疑わない。自称保守系論壇誌は完全に韓国差別雑誌に成り下がり、平気で「韓国が消えても誰も困らない」などの特集を組み、零細出版社はカネのために『韓国人に生まれなくてよかった』というタイトルからしてモロに差別の出版行為を平然と続けている。

私はこんな業界がほとほと嫌になったし、一時でもこの業界にいた自分を恥じている。本当にばからしく、彼らに更生の余地はない。

「保守」とは本来、人間の理性に懐疑的で、社会の急激な改変や改良を嫌い、歴史や経験、常識(コモンセンス)に価値判断の基準を定めるという生活姿勢そのものを指す。もうそんな本来の意味での「保守」は、絶滅危惧種である。私はたとえ絶滅しようとも保守の本懐を曲げないで死にたい。

(筆者の著書に『ネット右翼の終わり』『左翼も右翼もウソばかり』など。11月に小説『愛国商売』を刊行予定)

<本誌2019年10月15日号掲載>

【参考記事】日本に巣食う「嫌韓」の正体

20191015issue_cover200.jpg
※10月15日号(10月8日発売)は、「嫌韓の心理学」特集。日本で「嫌韓(けんかん)」がよりありふれた光景になりつつあるが、なぜ、いつから、どんな人が韓国を嫌いになったのか? 「韓国ヘイト」を叫ぶ人たちの心の中を、社会心理学とメディア空間の両面から解き明かそうと試みました。執筆:荻上チキ・高 史明/石戸 諭/古谷経衡

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、6月予想外の3.3万人減 前月も

ワールド

EU、温室効果ガス40年に90%削減を提案 クレジ

ビジネス

物価下振れリスク、ECBは支援的な政策スタンスを=

ビジネス

テスラ中国製EV販売、6月は前年比0.8%増 9カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 10
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 8
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 9
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中