最新記事

トランプの「国へ帰れ」発言、大統領選で民主バイデン挽回後押しも

2019年7月20日(土)11時47分

米民主党の移民系女性議員に対するトランプ大統領の「国に帰れば」発言が、同党の大統領候補指名争いで失速気味にあるジョー・バイデン前副大統領(写真)に巻き返しのチャンスを与える可能性がある。写真は7月11日、ニューヨークで撮影(2019年 ロイター/Carlo Allegri)

今週物議を醸した米民主党の移民系女性議員に対するトランプ大統領の「国に帰れば」発言が、来年の大統領選に向けた民主党候補指名争いで失速気味にあるジョー・バイデン前副大統領に巻き返しのチャンスを与える可能性がある。

トランプ大統領は14日、「スクワッド」と呼ばれるアレクサンドリア・オカシオコルテス、イルハン・オマル、アヤナ・プレスリー、ラシダ・トレイブの4人の議員を標的に「完全に破滅して犯罪がまん延する元にいた国に帰り、建て直しを手伝ったらどうか」と発言した。

「人種差別的な発言」として波紋が広がる中、トランプ大統領はこれを逆手に取り、急進的なスクワッドが「民主党の新たな顔」とのレッテルを張り、大統領選を視野に民主党を攻撃する戦略に出た。

これに対し、バイデン氏は自身の「中道派」を堅持し、オカシオコルテス議員のほか、民主党候補の指名争いでしのぎを削る急進左派的なバーニー・サンダース上院議員らと差を鮮明にすることで、穏健派や中道派の支持基盤を確実にすることを狙う。

バイデン氏は今週、トランプ大統領の発言を人種差別的で「米国の魂をえぐり出すようなものだ」と批判。同時に、急進的な4議員が民主党の主流を成しているわけではないと語り、政策面で下院の結束を維持しようと腐心しているペロシ下院議長に支持を表明した。

さらに、民主党が下院の過半数議席を奪還した昨年の中間選挙では、勝利した民主党議員の大半が自身と同じ中道派で、オカシオコルテス議員らのように民主社会主義者を自称する議員はさほど多くなかったと強調した。

実際、バイデン氏の支持者の間では、民主党がトランプ大統領に勝利するために過度に左派に傾きつつあるとの懸念が根強い。

バイデン氏はまた、オバマケアに基づく医療保険制度の強化を提唱。民間保険を廃止し、国民皆保険制度「メディケア・フォー・オール」を推すサンダース議員との差別化を図ると同時に、「新しい何かを始めるのではなく」、「旧守」の姿勢を貫く考えだ。

シンクタンクのサード・ウェイのエグゼクティブバイスプレジデント、マット・ベネット氏は、トランプ大統領は来年の大統領選で、自身と「危険な左派」との戦いという戦術を仕掛けようとしていると指摘。バイデン氏のような中道派がその戦略を食い止めない限り、民主党はトランプ大統領の手中に落ちる危険があるとの見方を示した。

2020年大統領選の民主党の最有力候補と目されていたバイデン氏だが、先月開かれた同党の初回テレビ討論会で大きくつまづいた。移民を両親に持つ黒人女性のカマラ・ハリス上院議員に人種問題を巡り激しく追及され、バイデン氏の支持率はそれ以降急低下している。

(James Oliphant 記者)

[ワシントン 19日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中