最新記事

BOOKS

沖縄の風俗街は「沖縄の恥部」なのか?

2018年11月13日(火)16時35分
玖保樹 鈴

沖縄県那覇市の辻ソープ街(2011年夏) HmanJp [Public domain], from Wikimedia Commons

<ノンフィクションライターの藤井誠二による『沖縄アンダーグラウンド』は、興味本位の風俗レポートでも、風俗街の歴史本でもない。沖縄の女性がいかに翻弄されてきたかを描きだしている>

那覇市内のゆいレール旭橋駅から徒歩で15分ほどの海岸沿いに、沖縄総鎮守の神社、波上宮がある。パワースポットとしても人気の場所だが、ここから少し歩くと風俗店ばかりのエリアにさしかかる。

神社周辺を観光気分で散策していた際、突如ソープランドの看板が視界に入りギョッとしたことがあるが、そこが「辻」と呼ばれる旧遊郭地帯だったことは、東京に戻ってから知った。

キラキラした日差しと美しいビーチ。海外からも観光客が押し寄せる、世界に誇れるリゾート地。沖縄と聞いてこんなイメージを持つ人は多いだろう。中には基地問題で揺れる島と思う人もいるかもしれない。しかし沖縄にはそれ以外の、「別の顔」があるという。

ノンフィクションライターの藤井誠二さんによる『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)は、私がかつて足を踏み入れた辻をはじめとする、沖縄県内のかつての売春街=アンダーグラウンドをルポルタージュした一冊だ。

今から20年以上前、駆け出しの社会派ライターだった頃に「平和と反戦の島、沖縄」を訪ねた藤井さんは、偶然出会ったタクシードライバーにより宜野湾市内にある真栄原新町にいざなわれる。そこは「ちょんの間」と呼ばれる、性風俗街が密集した地域だった。

値段は15分5000円。10代にしか見えないコスプレの女性から胸をはだける女性、60代と思しき女性までもが200人ほど並び、客を誘っていたそうだ。

沖縄県内にはこのような「特飲街(特殊飲食街の略)」と呼ばれる、売春街が点在していた。以来藤井さんはタクシードライバーを案内役にして、真栄原新町とコザの吉原社交街をはじめ、沖縄の色街で働く女性の声を拾い始める。

機能しきれなかった「性の防波堤」

彼女たちが働く理由は貧困や暴力からの逃走などで、中には借金のかたに県外から「売られて」きた女性もいた。他の地域と大差がないように思えるが、沖縄の特飲街には米軍基地とほぼ同時期に生まれたという特徴がある。

同書が引用した沖縄タイムスの1956年10月6日付夕刊によれば、普天間基地に通じる真栄原部落には「外人相手の夜の女」がたむろし、いかがわしい店も増えて毎日騒然としていた。これでは子供の教育上、風紀・衛生面からも憂慮されることから、部落から100メートルほど離れた場所に作られたのが真栄原新町なのだという。

コザの吉原社交街の成り立ちも同様だ。辻こそ17世紀に琉球王府により作られたが、薩摩や中華圏の来訪者たちの慰安場所だった。そういう意味では辻も、外から来る者に色を売るために作られている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中