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電力会社、伊方原発再稼動で裁判に注力 交付金依存の地元に残る不安とは

2018年11月2日(金)11時33分

11月2日、四国電力は、再稼動した伊方原子力発電所3号機の発送電を10月30日に開始した。伊方町で10月撮影。(2018年 ロイター/Mari Saito)

四国電力は、再稼動した伊方原子力発電所3号機の発送電を10月30日に開始した。東日本大震災から8年近くがたち、国内各地で原発が再稼動している。電力会社は専門知識を持つ弁護士を雇い、反対住民らによる訴訟で次々と勝訴している。ロイターは今年10月、伊方町とその周辺の町で、町長やミカン農家、原発とともに暮らす人々に取材を行った。

伊方原発から15キロほど離れた八幡浜市で、シャッターが目立つ商店街にある寿司屋「すし光」は平日にもかかわらず、珍しく混んでいた。

「ここはみんな原発賛成。そう書いてもいいよ」──。飲み物を乗せたお盆を運びながら、女将の尾崎佐智代さんは言う。「お客さんのほとんどは原発関係者。この人は、原発で働く人をミニバンで運んでる」と、配膳しながらカウンターの客の1人をゼスチャーで指し示した。ビールを飲んでいる別の客に対しては「この人は建設会社だから、こっちも忙しいの」と紹介した。伊方原発の再稼動を控え、近所のホテルや旅館は、再稼動に携わる人たちで満室だった。

東日本大震災で東京電力福島第1原発がメルトダウンを起こしてから、いったん全ての原発を停止した電力会社は、静かに再稼動を進めている。伊方は、その代表的な存在だ。

広島高裁は今年9月、伊方原発3号機の運転を差し止めた仮処分決定を取り消した。その結果、原発は約1年ぶりに再稼動されることになった。2011年以降、多くの原発関連訴訟が起こされ、電力会社は反原発派の弁護士との長い戦いに臨みながら、地元住民に対し理解を求め続けた。

そうした戦略が功を奏し、現在国内で8基の原発が稼動されている。震災前の54基には遠く及ばないが、アナリストや電力会社が当初予想したよりは多い。

裁判闘争

日本は戦後、クリーンエネルギーとして、また化石燃料の輸入に依存しないため、原子力発電を推進してきた。

しかし福島の事故によって、原子力産業と政府への不信感が強まり、国民は原発に批判的になった。近年、電力会社が裁判で勝訴し、原発が再稼動されていることで、原発の建設を支えてきた「電力会社、政府、地元」の強力なトロイカ体制の復活とみる向きもある。

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