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米外交

イラン核合意を崩壊させる代償

2018年5月8日(火)17時00分
イラン・ゴールデンバーグ(新米国安全保障センター中東安全保障プログラム・ディレクター)、アリアン・タバタバイ(米戦略国際問題研究所拡散防止プログラム・シニアアソシエート)

核兵器獲得は時間の問題

それどころか、アメリカが核合意を離脱すれば、イランではアメリカ相手に外交などしても無駄だという見方が圧倒的に強くなり、ますます交渉に応じなくなる。イラン国内では、国際協調路線を取ってきた穏健派の影響力が低下して、強硬派の発言力が強まるに違いない。

そうなれば、イランは挑発的な行動を増やすだろう。弾道ミサイルの発射実験を行ったり、中東の攪乱要因であるシリア内戦への介入や、レバノンの武装組織ヒズボラやイエメンの反政府武装勢力ホーシー派への支援を拡大する可能性もある。国内では二重国籍保有者、特にアメリカ国籍者に対する弾圧を強化するかもしれない。

つまりアメリカが核合意から離脱しても、すぐに危機的状況にはならない。しかしイランはこれまで制限されていた活動を再開して、着々と核兵器獲得に近づくはずだ。アメリカは国際的な影響力を失い、制裁を復活させてもイランに方針転換を強いるほどの打撃を与えられない。

イラン国内では、アメリカとの交渉になど二度と応じるべきではないという政治的風潮が高まる。そんななか中東におけるアメリカのパートナー諸国、とりわけイスラエルとサウジアラビアはイランに対する不安を募らせて、アメリカに決然とした行動を求めるだろう。

その結果、アメリカはイランに核獲得を許すか、その計画を軍事的につぶすかの選択を迫られる。トランプは核合意を「最も愚かな」合意だと述べたが、そうした道をたどることこそ愚の骨頂だ。

<本誌2018年5月8日号[最新号]掲載>

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