最新記事

フランス

フランスの学生が大学を占拠してまで「成績による選別」に反対する理由

2018年5月2日(水)20時30分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

パリ第6大学を占拠した学生たち Benoit Tessier-REUTERS

<各地で大学占拠が頻発したのは、大学入学者の「成績による選別」に反対するためだという。いったいどういうこと?>

デモは民主主義の重要な一部だといって日常茶飯事のパリだが、ここ数年、全身黒づくめで顔も隠した一団があらわれて、機動隊と市街戦をして、手当たり次第に店などぶち壊し、ついでにデモもぶち壊すようになってしまった。

今年のメーデーでも、労働者のデモがあっという間に乗っ取られた。

黒づくめの集団は、アメリカやドイツでも登場した「Black Blocs」を名乗る正体不明の極左過激集団である。

さて、この3月からフランス各地で学生らによる大学占拠が頻発したが、それとこの「壊し屋」は関係ない。

大学占拠の争点は、マクロン政権の教育改革で新たに作られた「学生の進路と成功法」による、入学時の選別の導入である。フランスでは「バカロレア」(大学入学資格)があればどの大学、学部にも入れるのが原則だった。だが新法では、入学希望者が定員をオーバーした場合、学生の成績によって選別し、希望のコースに入れなくしようというのだ。

選別は、教育の平等の精神に反すると学生側は主張する。所得や人種で差別されないのと同じく、成績にも関係なく誰にでもが学ぶ権利があるべきだ、というのだ。

理想論のようにも思えるが、ここには現代社会が抱える問題があるのも事実だ。

大学は"誰でも"入れた

フランスの高等教育は大学と「グランゼコール」(大学校)の2本立てとなっている。グランゼコールはもともとナポレオンが国家エリートを養成するためにつくったもので、民間企業に就職してもいきなり課長クラスから始まる。バカロレアのあとさらに難関の入学試験があり、高校で成績優秀な者が準備コースか大学を経て入る。

一方、大学には誰でも入れる。日本では、高校卒業と大学入学や職業の資格取得は別物だが、フランスでは、ただの高校卒業というのは存在せず、何らかの資格を取ることで卒業となる。バカロレアはその一つで、大学に入れるという資格である。だから、バカロレア取得者が好きなところに入学できるのは当たり前だ。

昔はそれでよかった。1965年には、バカロレア取得までいく者は同じ世代のわずかに10%だった。この中には高級官僚や大会社の幹部をめざすグランゼコールや美術学校、ビジネススクールなど専門学校へ行く人たちもいるから、大学は実学と距離を置いた学問の府、ということで十分だった。

ところが、バカロレア取得者の数はいまや3倍以上に増えた。グランゼコールや専門学校の定員は増えないから、その人たちが大学になだれこんでくる。

この人たちは、必ずしも学問の探究のために大学に入るわけではない。社会的格差を乗り越えるためだ。社会の側でも知的労働者に対する需要は増加した。そこで大学側も、修士コースをMBAに似たものにするなど機構改革を行い、実学の要求に応えるようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

オランダ国防相「ロシアが化学兵器の使用強化」、追加

ビジネス

GPIF、24年度運用収益1.7兆円 5年連続増も

ワールド

中国、EU産ブランデーに最大34.9%の関税 5日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中