最新記事

朝鮮半島

「中国排除」を主張したのは金正恩?──北の「三面相」外交

2018年5月2日(水)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

第3回南北首脳会談 「板門店宣言」に署名した金正恩委員長(左、4月27日) Korea Summit Press/Reuters

南北首脳会談で「中国抜き」の3ヵ国による朝鮮戦争平和協定協議案を提起したのは金正恩らしい。あれだけ中朝首脳会談では蜜月を見せながら、中国への警戒は金正日以来。2日に訪朝する王毅外相の目的の真相でもある。

板門店宣言における「3者または4者」案の怪

4月27日の板門店宣言では、休戦協定を終わらせ終戦協定に転換させて平和体制を創ることに関して「3者または4者」で協議する旨のことが書いてある。

「3者協議」ということは「米朝韓」の間でのみ協議して、その中に休戦協定署名国である「中国」を入れないという意味だ。

「4者協議」案は、言うまでもなく「中国」を入れた「米中朝韓」を指す。

4月26日付のコラム<朝鮮戦争「終戦協定」は中国が不可欠――韓国は仲介の資格しかない>で触れたように、南北首脳会談の前の4月25日、安倍首相と文在寅大統領との電話会談で二人は、「終戦宣言」に関して「最低でも南北と米国の3者による合意が必要だ」と述べたと報道されている。「3者協議」案を二人は容認したわけだ。

しかし、4月27日の南北首脳会談では「3者または4者」と、中国を入れた「4者協議」案も含まれるようにした。

これは「3者協議」案のみにしたら、中国が激怒し、せっかく金正恩委員長が訪中して習近平国家主席と握手し、中朝蜜月をアメリカに見せつけたのに何にもならないと、金正恩が判断したからだろう。だから、「含み」だけを盛り込んでおいた。しかし「3者協議」も可能性として「あり得る」ことを示唆している。

これに関して、「中国排除」を「こっそり」主張したのは金正恩であるらしいことが伝わってきた。

「中国排除」を提案したのは北朝鮮か

4月29日、関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授から連絡があり、韓国の中央日報(韓国版)など複数のメディアが、韓国政府筋の情報として「2007年の南北首脳会談で中国抜きを提案したのは北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)だった」という趣旨のことを書いていると知らせてくれた。中国が北朝鮮を支援するために朝鮮戦争に参戦したのは「中国人民志願軍」としてであって「国家」としてではないから、というのが北朝鮮の理屈らしい。

拙著『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』の第3章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」で述べたように、朝鮮戦争はあくまでも当時の金日成(キム・イルソン)が(旧)ソ連のスターリンと共謀して起こしたもので、中国の毛沢東は絶対に反対だった。しかし金日成の狡猾な戦術とスターリンの裏切りにより、毛沢東は朝鮮戦争に参戦せざるを得ないところに追い込まれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本など45カ国のビザ免除措置を来年末まで延

ビジネス

MUFG主導の気候金融ファンド、6億ドル調達

ビジネス

米財務省、第4四半期借入額見通しは5690億ドルに

ビジネス

米株式市場はAIブームの限界を見落とし=ブリッジウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中