最新記事

北朝鮮

北朝鮮「市場から商品が消えた...」、対話攻勢はやはり制裁が影響か

2018年2月27日(火)15時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

平壌の街頭の売店に集まる市民(2005年8月) Yuri Maltsev-REUTERS

<北朝鮮国内では各地の市場から商品が姿を消しつつある。経済封鎖の影響が出始めているためだが、新興富裕層の卸売業者が商品の値上がりを見込んで出し惜しんでいることも背景にある>

最近、北朝鮮が対話攻勢に出ているのは、やはり経済制裁が効いてきたせいもあるのだろうか。

近年、北朝鮮の人々にとってなくてはならない存在となっているのが、市場だ。食べ物や日用品を買うにとどまらず、最新の流行やリアルな海外情勢の話までが飛び交う、トレンドの最先端を行く空間なのだ。その市場に異変が生じていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

貧困層に打撃

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、市場では物価が高騰し、店頭から商品が姿を消しつつある。

「市場では生活必需品の売り買いはほとんど行われなくなり、食料品はあるものの、種類は減っている。それすらも中国が門戸を開かない限り、いつまで持ちこたえられるかわからない。」

両江道(リャンガンド)の情報筋も、最近の市場の状況を次のように説明した。

「今まで『苦難の行軍』など、幾度となく苦境を乗り越えてきたが、ここまで市場に閑古鳥が鳴く状況は初めてだ」

「苦難の行軍」とは、数十万人単位の餓死者を出した1990年代の大飢饉のことだ。

<参考記事: 北朝鮮で餓死者続出か...五輪や「どんちゃん騒ぎ」の陰で

こうした状況の背景にはもちろん、国際社会の経済封鎖の影響がある。だが、それだけではない。卸売業を営む「トンジュ」(金主)と呼ばれる新興富裕層は、値上がりを見込んで売り惜しみし、商品を少ししか卸さないのだ。

朝鮮半島では昔から、冬の終わりから初夏にかけて、昨年秋に収穫した穀物が底をつき、食糧不足に陥る。これを「春窮」と言うが、トンジュにとっては貯蔵しておいた穀物を高く売るチャンスというわけだ。経済制裁によるモノ不足が、そこに拍車をかけているのである。

北朝鮮当局は、トンジュを締め上げて穀物を放出させることもできるだろう。しかし、そもそも北朝鮮で手広く商売をする人物が、権力者とズブズブの関係にあるのは基本中の基本だ。当局はむしろ、トンジュの庇護に回っているのである。

北朝鮮の食糧事情はかつてに比べ、大きく改善した。しかし、同時になし崩し的な資本主義化が進行したことで、貧富の格差が拡大。いくら働いても、市場で食べ物を買うことのできない層が出現しているのである。

<参考記事:コンドーム着用はゼロ...「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    悪夢の光景、よりによって...眠る赤ちゃんの体を這う…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中