幕が下りたら、ゴミになる。舞台芸術が抱える「大量廃棄」という闇

2026年3月16日(月)14時00分
柾木博行(本誌記者)

舞台制作におけるSDGsの指標「シアター・グリーン・ブック」

活動の大きな柱となっているのが「シアター・グリーン・ブック(Theatre Green Book)」の日本語版制作と普及である。2021年にイギリスで発行された、サステナブルな舞台芸術のためのガイドラインだ。現在、18の翻訳とローカライズ版が公開されており、イマジネーション・グリーンによって日本語翻訳版が2025年夏に発表された。

このガイドラインはSDGsにおける環境の側面を中心に据えているが、働く人の人権や、観客のアクセシビリティ(バリアフリーなど)といった社会的な側面にも目を向けるべきだとしている。

「シアター・グリーン・ブック」は、主に以下の4つの情報集で構成されている。

•総合編(サステナブルな舞台制作の基本的な考え方と分野ごとの目標を紹介)
•持続可能な作品制作(作品制作の各過程(企画、実製作、ツアー、処分)で持続可能性に有効な実践の具体的アイデア)
•持続可能な運営(劇場や劇団の運営における実践例)
•持続可能な建物(劇場自体の環境性能を高める方策)

大島は、個人の努力ではなく、業界全体で共有できる「指標や目標」を導入すべきと考え、舞台の作り方や考え方を変える「仕組み」として「シアター・グリーン・ブック」の普及に取り組んでいる。

日本ならではの壁:「時間」と「金」の課題

しかし、日本における課題として「時間」と「金」の問題が浮上した。

この点について大島は、欧米各国と比べて、日本の舞台制作では稽古時間など創作のための準備時間が非常に短いことを指摘する。

短い期間で上演に間に合わせるため、セットの再利用のための仕分けや、環境負荷の低い素材を選ぶための調査など、サステナブルな舞台制作の準備や片付けに割く時間が圧縮されてしまうのだ。創作のクオリティを下げずに、持続可能な取り組みに時間を割くためには、それに見合った人員が必要となり、結局は「金」の問題に突き当たる。

また、例えばイギリスの公共劇場が環境配慮に取り組めるのは、社会が文化芸術にしっかりと資金を提供しているから。一方、日本では助成金制度があってもその多くが「公演の赤字分を補填するもの」という趣旨の政策であるため、持続可能な制作のためにコストをかけることが難しい現状がある。

イマジネーション・グリーンは、こうした課題に対し、劇場や制作者とのネットワークを構築しながら、具体的にどうすれば日本の舞台芸術が持続可能になるのか、仕組みづくりと政策提言を目指して活動を続けている。

老舗劇団によるサステナブルな舞台づくりへの挑戦

演劇集団円『ソハ、福ノ倚ルトコロ』

演劇集団円『ソハ、福ノ倚ルトコロ』(作・演出=内藤裕子、美術=大島広子) 撮影=森田貢造

日本の舞台芸術におけるサステナビリティへの挑戦は、新しい団体だけのものではない。東京を拠点とする新劇系の老舗劇団である演劇集団円は、2022年10月公演『ソハ、福ノ倚ルトコロ』で、サステナブルな舞台づくりを実践した。

この取り組みは、劇団側が最初からサステナビリティを強く意識していたというよりも、舞台美術を担当した大島からの提案によって実現したという。

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