コラム

この2年ですっかり民主党のキーパーソンとなった、オカシオコルテスの存在感

2020年06月25日(木)15時10分

オカシオコルテスは民主党下院予備選を大差で勝利した Mike Segar-REUTERS

<左派寄りの政策でミレニアル世代の支持を集めるAOCだが、バイデン陣営であまり目立ってしまうと中道票が離れるおそれがある>

アメリカの選挙には現職であれば自動的に再選に出馬というルールはありません。地方議員から大統領まで、現職であっても必ず予備選を勝ち抜かないと、次の選挙には出られないのです。もちろん、大統領の場合はよほどのことがない限り、再選阻止を狙うチャレンジャーに地位を脅かされることはありません。

ですが、議会の議員の場合は必ず予備選という洗礼をくぐり抜けなければ、再選を目指すことはできないのです。ですから、時には無名の新人がベテラン議員を候補の座から放逐するという事態も起きます。2年前の6月に、ニューヨーク14区で起きたのは正にそのようなドラマでした。

当時、議席を占めていたのはジョー・クローリー議員(民主)、当選10回のベテランで、連邦下院における民主党議員団で、ボスであるナンシー・ペロシ院内総務(当時、現在は下院議長)を支える重鎮でした。選挙にも強く、民主党優勢の選挙区とは言え、毎回の得票率は74%から82%と圧倒的だったのです。この2018年の予備選でも、ニューヨークの知事、市長、州選出の2人の上院議員などの推薦を得ており、再選は地元民主党の総意と思われていました。

ところが、そこに強力なチャレンジャーが登場したのです。バーテンダーをしながらサンダース派の運動員をしていた、党内最左派に属するアレクサンドリア・オカシオコルテス(AOC)という28歳のヒスパニック系女性候補は、現職に挑戦するとして予備選に立候補。ミレニアル世代を中心に、現状打破を求める票をまとめて57%という得票率を獲得、現職のクローリー氏は15ポイントの大差で敗退したのでした。

年が明けて2019年の1月に初登院して以降は、多数派となった下院民主党においてAOCの言動は毎日のように報じられ、その存在感は高まるばかりでした。そのAOCは大統領予備選にあたっては、やや遅めにサンダース候補への支持を表明。またサンダース氏の撤退後は、やはり少し時間を置いてバイデン候補への支持を表明しています。どちらも「後から支持表明」をすることで、自身の存在感に重みを持たせる計算だと思います。

じわじわと高まる存在感

時間の流れは速く、予備選の番狂わせから2年が経過。この6月23日には、同じように民主党のニューヨーク14区下院議員候補予備選が行われました。AOC優勢が伝えられる中、刺客として登場したのはミシェル・カルーソ・カブレラ氏、20年以上にわたって経済専門局CNBCで国際経済の報道を行ってきたキャスターです。以前は共和党員でしたが、民主党に転じての立候補でした。

一部には、AOCが選挙区におけるアマゾン第2本社誘致を潰したことに不快感を持つ票をまとめて、カブレラ氏が善戦するという予想もありました。ですが、蓋を開けてみれば、AOCは有効票の72.6%を獲得、19.4%に終わったカブレラ氏に実に50ポイント以上の差をつけての圧勝でした。

しかも、同時に行われた州議会議員の予備選では、AOC効果と言える票の動きがあり、AOCの選挙区に重なる州議会下院(ステート・アセンブリー)では、3人の現職が敗退して、党内左派の新人が躍進するという結果が出ています。

この予備選における自身の圧勝、そして州議会下院予備選における自派の躍進により、AOCという政治家の存在感はさらにジワジワと高まって行くことになると思います。それがどんな形で現れるのかというと、当面はバイデン陣営における政策立案という形を取ると思われます。

<関連記事:解任されたボルトンがトランプに反撃 暴露本の破壊力は大統領選を左右する?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀、銀行の自己資本比率要件を1%引き下げ

ビジネス

アングル:日銀利上げと米利下げ、織り込みで株価一服

ワールド

ロ軍、ドネツク州要衝制圧か プーチン氏「任務遂行に

ビジネス

日経平均は横ばい、前日安から反発後に失速 月初の需
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 10
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story