アメリカ社会

「中絶は恥ずべきことじゃない」、キャリアを守るため中絶を選んだ女性の本音

2022年06月02日(木)17時07分
テイラー・エッシュ(ジェド・メディア設立者兼CEO)

子供のいない人生を選ぶためにエッシュは中絶をし、その経験を公開した TAYLOR ESCHE

<米連邦最高裁が「妊娠中絶」という女性の権利を否定する前に、中絶経験のある人たちは隠れないで堂々と声を上げよう>

それなりの「必要性」があれば人工妊娠中絶は正当化される--そう考える人がたくさんいるのは知っている。まだ二人とも人の親となるには若すぎる。どう見ても子育てに必要な経済力がない。あるいは、誰かに無理やり妊娠させられたとか。

そういう「必要性」があるなら妊娠中絶も認めましょうという議論だ。でも私とパートナーに、そんな必要はなかった。お金の心配はないし、一緒に暮らし始めて5年以上たっていた。家も共同所有。だから中絶の必要性はなかった。でも権利はあった。

付き合い始めてすぐ、私たちは子供を持つことについて話し合った。最終的に私は「子供は要らない」と言い、パートナーも同意した。

ピルを服用しているのに私の生理の周期は不安定だったので、トイレに常備した妊娠検査薬でしょっちゅう検査していた。2021年のある日、検査キットに2本のピンクの線が現れた。当時、私は27歳。きちんと避妊していたからショックだった。

中絶を選ぶのは女の権利だと、ずっと思っていた。でも自分がそんな選択を迫られるとは思っていなかった。それにカトリックの家に生まれ、カトリック系の学校で育ったから、中絶は悪って感覚がどこかに染み付いていた。

その夜、帰宅したパートナーに妊娠を告げ、私は泣いた。彼は無言で、一緒に泣いた。

もしも妊娠6週目より前なら、中絶しても道徳的に悩むことはない。私は自分にそう言い聞かせた。それで翌週、地元の家族計画協会で超音波検査を受けた。結果は妊娠5週目。ぎりぎりだった。

自分の中絶経験を告白

2日後、パートナーと一緒にクリニックに行き、中絶薬を飲んだ。その日は彼も仕事を休んで、ずっと私と一緒にいてくれた。うれしかった。

自分の選択が間違っていたと思ったことは、一度もない。仕事が忙しくて、そんなことを考える暇もなかった。

私はもうすぐ29歳になる。これまで、自分の中絶経験を人に話すことは、めったになかった。すごく個人的なことだから、話しにくい。でも思い切って話してみると、たいてい「実は私も......」という反応が返ってきた。

それが現実。だから(女性の中絶権を認めた1973年の)ロー対ウェード判決を覆す意見書を連邦最高裁が用意していると聞いたときは、思わず泣いてしまった。

こんな日が来る前に、自分の中絶経験をもっとオープンに話せていたらよかったと思う。中絶は恥ずべきことではないし、秘密にしておくことでもないのだから。中絶を経験した多くの女性がもっと声を上げれば、最高裁も考え直すかもしれない。だから私はツイッターに、自分の中絶経験を投稿した。

子供を持つ準備ができる前に産むことは、自分にも、パートナーにも、子供にもフェアではない。私の場合は、自分のキャリアを守るために中絶を選んだ。経営者の私は育児休暇を取れない。

ロー対ウェード判決が覆されたら、私の住むテネシー州では中絶が不可能になる可能性が高い。望まない妊娠をしてしまい、でも自由な州に行って中絶手術を受ける余裕のない女性は、この先どうしたらいいのだろう?

中絶を選ぶのに「必要性」は関係ない。それは生き方の選択なのだから。

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