コラム

ワクチン以上に恐れるべきは、根拠なきワクチン危険論

2021年02月09日(火)18時00分

「曖昧さに耐える力」が試される一冊

極め付きは「新型コロナのワクチン接種は危ない!」という言葉だ。いつの時代もワクチン忌避論はあったが、「時の権力が推し進めるワクチン接種は製薬会社の圧力」といった左派的な反権威主義とワンセットだった。本書はさすがにそうした類いの主張はないが、帯にここまで強い言葉であおるような論拠は示されていない。せいぜいが「打ったほうが危ない」程度の仮説の提示までだ。

本書はオンライン書店上で圧倒的なコメント数が付いており、話題の書であることは間違いない。それを支えているのは、小川という右派論客の力だろう。

ワクチンへの警戒が不要だとは言わない。他国の状況とともに常にウオッチする必要はある。だが今の時代、ワクチン以上に警戒すべきは、論拠が不足したまま流布される極端なワクチン危険論だ。不安とともに極端な言葉が広がると、本来なら防げた感染症が防げなくなるリスクが高まる。危険論の着火点は、右派でも左派でもあり得る。今後も含め、「曖昧さに耐える力」が試される一冊なのだろうと思うのだった。

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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