ニュース速報
ワールド

アングル:オージービーフ、日韓など世界でシェア拡大 米国産は減

2024年10月20日(日)07時47分

 オーストラリアの首都キャンベラから南に約100キロのクーマに、豪食肉加工大手ビンダリー・フード・グループの食肉加工施設がある。室内は冷蔵庫並みに冷やされ、帽子、手袋、青いプラスチック製エプロンを着けた20人ほどのスタッフが、屠畜されたばかりの食用牛をわずか数分で切り分け、箱詰めしている。クーマで10日撮影(2024年 ロイター/Peter Hobson)

Peter Hobson

[クーマ(オーストラリア) 17日 ロイター] - オーストラリアの首都キャンベラから南に約100キロのクーマに、豪食肉加工大手ビンダリー・フード・グループの食肉加工施設がある。室内は冷蔵庫並みに冷やされ、帽子、手袋、青いプラスチック製エプロンを着けた20人ほどのスタッフが、屠畜されたばかりの食用牛をわずか数分で切り分け、箱詰めしている。

施設の加工数は1日約200頭と2年前の30ないし40頭から大幅に増加したが、今後数カ月でさらに220頭に増えそうだ。家畜部門の責任者ライアン・マクドナルド氏は「今は絶好のタイミング。米国向け輸出需要で加工施設の出荷価格が上昇し、さらに畜牛の価格も上がっている」と話す。

オーストラリアの食用牛業界は、米国産牛肉の生産が落ち込んでいることから輸出が記録的水準に増加。北米やアジアで市場シェアが高まり、牛肉加工業者や畜産農家は懐が潤っている。

世界最大級の牛肉輸出国であるオーストラリアと米国は、全世界の取引量におけるシェアがいずれも10%強で、年間輸出は約100万トン、80億ドル前後に上る。しかし米国は干ばつの影響で飼育頭数が1950年代以来の水準に落ち込み、牛肉の輸入を増やす一方、輸出を減らしている。専門家は米国の牛肉輸出は今後さらに減少すると予想しており、米国の畜産農家が生産規模を建て直すまでが他国の生産者にとって市場拡大のチャンスだと見ている。

ただ、牛肉の主要輸出国の多く、特に最大の輸出国ブラジルなどは、生産の減少や市場アクセス上の制約から、この好機を生かしきれていない。

南米の生産者は米国から関税を課せられており、口蹄疫に関連する規制によって日本や韓国への輸出が禁止されている。日韓は最大の米国産牛肉輸入国だ。一方、オーストラリアは過去4年間に雨の多い天候に恵まれ、牛の飼育頭数が増えているほか、米国、日本、韓国への輸出アクセスにも問題がない。

もちろん、オーストラリアの好調が永遠に続くわけではなさそうだ。牛肉市場は在庫の調整と建て直しというサイクルを繰り返しており、2020年代後半にはオーストラリアの飼育頭数が減少する一方、米国は回復する見通しだ。

それでも今の時点でオーストラリアに大きな利益を獲得するチャンスがあるのは間違いないと、バークレイズのアナリスト、ベン・テューラー氏は指摘する。「オーストラリアは今後数年間に黄金期を迎えるだろう。たんまりと利益を得ることができる」という。

ブラジルの食肉大手JBSの豪部門は23年第2・四半期のEBITDA(利払い・税金・償却前利益)が前年同期比57%増の2億2600万ドルに達した。

恩恵は畜産農家にも及んでいる。通常は家畜の供給が潤沢になれば価格は下がる。

しかしオーストラリアの業界団体である豪州食肉家畜生産者事業団(MLA) のデータによると、ヘビーステア(去勢された雄の食用牛で重さが一定以上)の牛肉価格は1キロあたり約3.50豪ドル(2.35米ドル)と、最近のピーク時には及ばないものの、昨年の2豪ドルの低価格を上回っており、畜産業者が採算ライン到達に苦労していた時期と比べれば市場環境は改善している。

<市場シェア>

通関統計によると、オーストラリアは牛肉の対米輸出量が22年には月平均1万1000トン、1億米ドル相当だったが、23年8月には約4万トン、2億9000万米ドル相当に急増し、月間輸出量が15年以来最大を記録した。オーストラリア産の米牛肉輸入市場におけるシェアは22年に12%だったが、今年1―8月には22%に上昇した。

米国の輸出が減る中、オーストラリア産牛肉は日本、中国、韓国などアジアの主要輸入国への輸出も増えている。日本におけるシェアは22年の38%から今年は47%に上昇。韓国でも同35%から45%に上昇した。半面、米国産のシェアは同時期に日本では40%から34%に、韓国では55%から48%にそれぞれ低下した。

中国はブラジル産とアルゼンチン産の輸入が最も多いが、オーストラリア産のシェアは7%から8%に上昇し、米国産は7%から5%に下がった。

MLAによると、オーストラリアの牛肉輸出は23年に108万トンだったが、今年は136万トンと過去最高を記録する見込み。25年にはさらに137万トンに増えるが、26年には若干減少する見込みだ。

ラボバンク(シドニー)のアナリスト、アンガス・ギドリーベアード氏も、いずれは米国が生産を増やし、市場シェアを再び獲得すると予想している。それでもオーストラリアの畜牛産業の足元の好調は「永遠に続くことはないが、絶好の機会だ」と強調した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国海警局、尖閣周辺で哨戒と発表 海保は領海からの

ビジネス

韓国、半導体ファウンドリー設立検討 官民投資で31

ワールド

中ロ軍用機の共同飛行、「重大な懸念」を伝達=木原官

ワールド

ベネズエラ野党指導者マチャド氏、ノーベル平和賞授賞
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 6
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的、と元イタリア…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中