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焦点:退任するインドネシア大統領、長男を次期副大統領に据え今後に布石

2024年10月18日(金)18時46分

 10月15日、 インドネシアのジョコ大統領が初当選し、就任式に臨んだのは2014年。このときジョコ氏の長男は出席を嫌がっていた。写真は2月、ジャカルタで大統領選の勝利集会に臨むプラボウォ次期大統領(左)とジョコ氏の長男で次期副大統領のギブラン氏(2024年 ロイター/Willy Kurniawan)

Kate Lamb Ananda Teresia

[ジャカルタ 15日 ロイター] - インドネシアのジョコ大統領が初当選し、就任式に臨んだのは2014年。このときジョコ氏の長男は出席を嫌がっていた。

当時27歳だったギブラン・ラカブミン・ラカ氏(37)はそれまでは地味な人生を送っており、ジョコ氏の首席顧問だったアンディ・ウィジャジャント氏によれば、「政界進出という父親の決断にも賛成していなかった」という。父方の祖母に強く諭されて、ようやくギブラン氏は父親の就任式に姿を現した。

ギブラン氏は20日、新たに就任式に出席する。今回は、父親の後任として人口2億8000万人のインドネシアの大統領に就任するプラボウォ・スビアント国防相(72)を補佐する副大統領という立場でだ。

ロイターは、ギブラン、プラボウォ、ジョコ各氏の側近として働いていた政府高官及び政治顧問6人を含む15人から話を聞いた。

ロイターが話を聞いた人々のうち6人は、ジョコ氏が退任後も影響力を維持するための策の1つとして、いかにして内向的だった息子を政界に送り込んだかを明かした。また4人は、プラボウォ氏がかつてのライバルの息子を副大統領候補として招請し、その9カ月後に裁判所が副大統領候補の年齢要件を緩め、ギブラン氏の出馬に道を開いた経緯を詳細に説明した。

ジョコ大統領、ギブラン氏、プラボウォ氏の広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

副大統領には法令上の権限はほとんどないため、ギブラン氏の影響力はプラボウォ新大統領との関係次第となる。新大統領に近い5人の関係者によれば、経済のデジタル化や、新首都プロジェクトのまたはプラボウォ氏の看板政策である食糧制度の指揮といった役割が検討されているという。

ギブラン氏は小規模な都市の市長を3年務めた経験があるだけで、史上最年少でインドネシア副大統領に就任する。

政府系シンクタンクの国立研究革新庁の政治研究員ファーマン・ノア氏は、「単なるお飾りになる可能性が高いというのがもっぱらの評判だ」と語る。

<パンケーキ販売から政界へ>

インドネシアは世界で3番目に人口の多い民主主義国だが、いわゆる「政治王朝」の前例には事欠かない。メガワティ元大統領は、インドネシア建国の父とされるスカルノ初代大統領の娘であり、プラボウォ氏は独裁的な権力を振るった故スハルト大統領の娘と結婚している。

ジョコ氏の場合は、零細な家具職人の息子という地味な出自と、既存のインドネシア政界とのしがらみがないという点が多くの有権者にアピールし、2期連続での大統領選勝利につながった。

2019年に市長選への出馬を発表するまで、ギブラン氏は政治に積極的に関わってこなかった。チョコレートやチーズを詰めたパンケーキを販売するなど、食品関連ビジネスの経営に忙しかったのである。

その頃、ジョコ大統領は2期目に入っており、3選をめざすことは憲法上許されていなかった。事情に通じた6人の関係者によれば、ジョコ氏はますます大統領退任後の権力基盤の維持に腐心するようになっていたという。

人気の高いジョコ氏の盟友たちは3選容認や任期の延長といった構想を提案したが、いずれも成功しなかった。

前任者2人は大統領退任後も自党のリーダーとして影響力を行使し続けているが、ジョコ氏には自分が主導権を握れる与党がない。

そこでジョコ氏は、まず人口50万人のソロ(スラカルタ)の市長選挙に立候補するよう息子を説得にかかった。

ウィジャジャント氏など事情通の6人によれば、ギブラン氏は当初興味を示していなかった。ウィジャジャント氏の印象では、ギブラン氏は「野心がなく」「やや孤独を好むタイプ」だった。

だがギブラン氏の熱意は高まっていった。関係者の1人によれば、別の町の市長で地域の有力者として名を高めていた義弟のボビー・ナスション氏の影響もあったという。ギブラン氏は、ジョコ氏が大統領候補として所属した闘争民主党の候補としてソロ市長選を戦い、当選した。

ジョコ氏と闘争民主党の関係は昨年になって決裂した。ハスト・クリストヤント党書記長は、ジョコ氏が任期延長を試みたのをメガワティ党首が拒否したことが一因となったと話す。ジョコ氏がギブラン氏の副大統領就任を後押ししたことは「間接的に、自らの任期を延長する方法だった」と指摘した。

この決裂により、ジョコ氏とその息子はプラボウォ氏の陣営へと傾いた。

転機は2023年4月に訪れた。ジョコ氏はメガワティ党首から、発表のわずか1日前に闘争民主党の大統領候補者の名を告げられた。闘争民主党員・顧問5人がロイターに語ったところでは、大統領は、直前に知らされたのは、自分が候補者に影響を及ぼすことができないという示唆だと受け止めたという。

<有権者向けアピールは苦手>

ファーマン・ノア氏は、ギブラン氏には父親のように市民に直接語りかけるような政治スキルがない、と語る。「ジョコウィ氏は大衆とつながっていたが、ギブラン氏は引っ込み思案だ」

6月、ギブラン氏はある学校を訪問した際に、自分の幼い息子の写真が表紙となっているノートを配布した件で謝罪した。批判派のあいだでは次はその息子が出馬するのではないかという冗談が広がった。

ジョコ氏の側近は2020年、市長選を戦っているギブラン氏について、コミュニケーションの取り方が下手だと注意したという。このやり取りに詳しい2人の人物が明らかにした。

ある人物によれば、ジョコ氏はそうした懸念を認めつつ、かつて自分も務めたソロ市長という地位が国政に向けたよい訓練になると信じていたという。

ジョコ氏の計画にとって障害の1つは、闘争民主党のソロ支部長だったF・X・ハディ・ルディアトモ氏だった。ハスト・クリスティヤント党書記長がロイターに語ったところでは、ハディ氏は当初、ギブラン氏を候補として指名する決定を支持していなかった。

ハスト氏によれば、ジョコ氏はハディ氏を懐柔するため副大臣のポストを提示したが、ハディ氏は断ったという。

ハディ氏にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

事情に詳しい関係者によれば、ジョコ氏はギブラン氏の選挙運動を支援するため、影響力の強い自らの支援者ネットワーク「プロジョ」を動員したという。

ギブラン氏を擁護する人々は、同氏の政治的なコミュニケーション能力は改善されていると話す。大半の識者は、副大統領候補によって今年行われたテレビ討論において、ギブラン氏は経験値で優る2人のライバルに対して善戦したと認めている。

ギブラン氏の顧問チームに参加していたエミル・ダーダク元東ジャワ州副知事は、「口数は少ないが、彼はよく人の話を聞く」と評する。「よく聞いて、消化し、判断を下す人物だ」

<3度目の正直>

プラボウォ氏は大統領候補として2回連続でジョコ氏に敗れた後、2023年1月に必勝を期してギブラン氏に接近した、と双方の政治家に近い関係者は語る。

この時点で、大統領と副大統領候補の年齢要件は40才以上とされていた。だが9カ月後、憲法裁判所はこの年齢要件に例外を設け、ギブラン氏の出馬が可能となった。

憲法裁判所のトップはアンワル・ウスマン判事。ギブラン氏の叔父で、ジョコ氏の義弟に当たる。その後同判事は、この件の裁定に関して利益相反があったとして倫理規定違反により処分を受けた。ただし裁定は有効とされている。

プラボウォ、ジョコ両氏の広報担当者は、いずれも件の裁定への関与を否定している。

ギブラン氏の出馬資格を認める裁判所の判断以前から、プラボウォ氏は副大統領候補としてギブラン氏に声を掛けていた。関係者の1人によれば、プラボウォ氏は書面による1回を含め7回にわたって副大統領候補としての出馬をギブラン氏に要請した。ギブラン氏は3回目の要請を受けた時点で気持ちが動いていたという。

ところがジョコ氏は、かつてのライバルであるプラボウォ氏を自政権の国防相に選んだ経緯はあったものの、後継者として誰を支持するか、まだ迷っていた。

2人の関係者によれば、ジョコ氏のおじに当たるセチャワン・プラセチョ氏は、1990年代に権力乱用の容疑で軍籍を剥奪されたプラボウォ氏に肩入れすることなく、静かに退任することを勧めたという。プラボウォ氏は、そうした容疑について否認している。

2人の関係者は、プラボウォ氏の勝利にとって必要条件だったジョコ氏の支持が得られたときには、昨年10月の立候補登録期限が数週間後に迫っていたと話す。

任期満了を迎えるジョコ大統領は、一連の動きについて厳しい批判を浴びている。320億ドルを投じたもののトラブル続きでまだ建設中となっている新首都プロジェクトを中心とした自らのレガシーを守るべく、ジョコ氏が政治王朝を築こうとした、というのが識者らの見立てだ。

8月には、ジョコ氏の次男カエサン氏がジャカルタ知事に立候補することを可能とする法改正に対して全国的な抗議行動が広がり、議員らは法案を撤回せざるをえなかった。

ただし、ギブラン氏はインドネシア人口のかなりの部分を占める「Z世代」の有権者のあいだで広範な人気を得ている。

今年初め、ギブラン氏が市長室の撤収作業をしている写真がネットで話題を呼んだ。多くのユーザーは、同氏が飾っていた玩具やコレクター向けのフィギュアについてコメントしていた。

ギブラン氏の顧問だったエミル氏は、「あれがZ世代に受けている」と語る。「Z世代の有権者はギブラン氏を見て、『この人は自分と同類だ』と考える」

(翻訳:エァクレーレン)

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