ニュース速報
ワールド

アングル:インド南部の土砂崩れ、背景に専門家の警告無視した過剰開発

2024年08月10日(土)07時46分

  インド南部ケララ州の著名な観光地ワイナードで7月30日、集中豪雨による土砂崩れが発生し、200人余りが死亡して多数が行方不明となった。写真は地滑り現場で31日撮影(2024年 ロイター/Francis Mascarenhas)

Munsif Vengattil Krishn Kaushik Chris Thomas

[チョーラルマラ(インド) 2日 ロイター] - インド南部ケララ州の著名な観光地ワイナードで7月30日、集中豪雨による土砂崩れが発生し、200人余りが死亡して多数が行方不明となった。専門家は何年も前から土砂崩れの危険を警告し、近隣の州政府などが過剰な開発に伴う自然災害リスクの高まりを指摘してきたが、こうした声はほとんど無視されてきた。

土砂崩れが起きたのはワイナードで最も人気の高いリゾート地の一つ。建築から30年の石造りの宿泊施設は数日前に雨で台所が浸水してスタッフと観光客が退去済みだったが、付近の村では205人が死亡。人的被害は約400人が死亡した2018年の洪水以来で最悪となった。

地元当局は現在、被害額の算定を進めるとともに、急速な観光開発が土砂崩れの原因かどうかを調べている。

急成長を遂げつつあるインドは全土で急速にインフラ整備を進めている。特に観光地で建設が急ピッチで進み、生態系がもろい北部ヒマラヤ山麓で洞窟の崩落や土砂崩れの発生が増えている。

今回の災害が発生する3週間前にケララ州観光相は州議会で、ワイナードは「訪れる人が限度を超えており、オーバーツーリズム(観光公害)の典型的な例」だと述べていた。

当局者はリゾートや観光施設で規制違反があったことを示す文書をロイターに示すことはできなかったが、実際には一部で違反が起きていると証言した。

今回の土砂崩れの直接的な引き金が過剰な開発であることを示す証拠はなかった。しかし専門家は、歯止めのない開発で森林が消えて雨水を吸収する能力が失われ、事態の悪化を招いたとみている。

環境保護団体の代表は「ワイナードではこのような豪雨は珍しくない」と述べ、無秩序な観光事業が災害を悪化させたとの見方示した。

<観光客の急増>

昨年ワイナードを訪れた国内外からの観光客数は100万人余りで、2011年の約3倍に急増した。連邦政府の報告書は同年、この地域全体の山岳地帯で過剰開発が行われていると警告したが、その後は具体的な対応策を公表していない。

ワイナード地区の災害管理に関する2019年の報告書は「この数十年に分別のない開発が行われ、丘陵、森林、水域、湿地が破壊された」と指摘。当時の自治体幹部は19年の土砂崩れで14人が死亡した後で「森林伐採と無謀な商業的介入で自然環境が不安定になっている」と記していた。

ロイターはワイナード地区の責任者、災害管理当局、ケララ州首相、連邦環境省にコメントを求めたが回答はなかった。

<神の国>

ケララ州は、西にアラビア海、東に西ガーツ山脈が位置するインドで最も美しい州の一つで、「神の国」とも言われる。しかし連邦政府の2022年7月の議会報告によると、2015―22年に国内で発生した土砂崩れ3782件のうち約60%がケララ州に集中していた。

西ガーツの生態系を調査する連邦政府委員会は2011年に「エリート層の貪欲さによって引き裂かれ、生存のために苦しむ貧困層によって侵食された。これは大きな悲劇だ」と指摘。鉱業の禁止、新たな鉄道路線や主要道路・高速道路の建設禁止、保護地域での開発制限を提言した。また観光業に関しては、厳格な廃棄物管理、交通規制、水利用規制を導入して影響を最小限に抑えるべきだと訴えた。

しかしケララ州など複数の州政府は報告書を受け入れず、新たに設立された委員会は2013年に西ガーツ山脈の保護地域の比率を全体の60%から37%に引き下げた。

2019年までの州議会の議事録によると、山脈沿いにある全ての州が保護地域の一層の縮小を望んでいる。連邦政府は全関係者向けに勧告を実施するための草案をまとめたが、最終的な命令はまだ出していない。

連邦政府の生態系調査委員会のマドハブ・ガジル氏は、委員会が「生態学的に特別な配慮が必要な地域について、建築物の再建など人の手によるさらなる介入を行わないことを具体的に勧告した」と説明。しかし観光業は金のなる木なので「政府は当然ながらわれわれの報告書を無視することを決めた」と付け加えた。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

立民・公明が新党結成で合意、野田氏「高市政権を追い

ビジネス

イオン、クスリのアオキHDへの取締役派遣を取りやめ

ビジネス

中国万科、社債2本の猶予期間さらに延長提案 総額8

ビジネス

再送-〔アングル〕サプライズ解散が促す円安、期待イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広がる波紋、その「衝撃の価格」とは?
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 8
    年始早々軍事介入を行ったトランプ...強硬な外交で支…
  • 9
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 10
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中