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焦点:ウクライナもう一つの闘い、西側入り目指し汚職対策に本腰

2023年01月01日(日)08時33分

 外から見れば、今はその時機ではないと思えるかも知れない。だが、敵のミサイルが国内各地に降り注ぎ、市民が生き延びようと必死の毎日を送る中、ウクライナ当局は汚職対策の強化に乗り出している。写真は2022年12月、ワシントンのホワイトハウスででバイデン米大統領(右)と会うウクライナのゼレンスキー大統領(2023年 ロイター/Leah Millis)

Dan Peleschuk

[キーウ 23日 ロイター] - 外から見れば、今はその時機ではないと思えるかも知れない。だが、敵のミサイルが国内各地に降り注ぎ、市民が生き延びようと必死の毎日を送る中、ウクライナ当局は汚職対策の強化に乗り出している。

ウクライナの汚職取締当局は、消費者に電力料金を合計10億ドル(1328億円)以上も過払いさせる結果になった公的制度に関して、1年前に着手された捜査を再開した。さらに、2020年に中断していた政府系石油会社の資産・資金3億5000万ドル以上が横流しされたとされる事件に関する捜査も再開した。

新たな動きも見られる。元中央銀行総裁が500万ドルの横領に関わった容疑で指名手配された。元総裁は容疑を否認している。

ウクライナの反汚職当局の動きに注目している法律の専門家バディム・バルコ氏は、「毎週1つか2つ大きな展開があり、それに加えて、規模は小さくても重要な動きが7ー8件ある」と語る。

ロイターは、ウクライナの反汚職当局者数人に取材。ウクライナ当局が、新興財閥オリガルヒを排除し、脆弱(ぜいじゃく)な政府機関を強化するべく奮闘しており、いわば対ロシアの戦争と並行して「二正面作戦」を進めている状態であることが明らかになった。汚職対策の強化は、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中でもリソースを投じるだけの緊急性があると考えられている。

実際のところ、当局は矢継ぎ早の声明やソーシャルメディアへの投稿を通じて、ほぼ毎日のように活動状況を明らかにしている。11月だけでも、新規の刑事事件の捜査開始は44件、容疑者への捜査通告は17件、裁判所への起訴状の提出は6件を数えている。

特別汚職対策検察庁(SAPO)によると、検察は2022年中に42の汚職事件について少なくとも109本の起訴状を提出した。すでに25件で有罪判決が出ている。

取材に応じた人々は、こうした取組みは待ったなしだと強調する。これから先ウクライナ復興に必要となる数百億ドル規模の支援を提供する準備を進めている西側諸国を安心させるためには、横行する汚職の撲滅が鍵になるからだ。

また当局者らは、将来的な侵略に備えてウクライナが長期的な安全保障を確保できるような地位を得る、つまり欧州連合(EU)に加盟するためにも、汚職対策が鍵になると話している。EUは加盟に向けた協議を始めるには、汚職の克服を必須条件に挙げているからだ。

ウクライナ国会の反汚職政策委員会の第1副委員長を務めるヤロスラブ・ユルチシン氏は、西側の支援国に関連して、「自らが予測可能なパートナーであることを実証することは、現在のウクライナにとって非常に重要だ。現実には、ウクライナでは2つの戦争が同時に進行している。1つはロシアとの目に見える戦争、もう1つは国内で進行している、旧ソ連解体後の腐敗した過去との戦いだ」と述べた。

<大統領自ら旗振り役に>

ゼレンスキー大統領も、反汚職の取組みを支援している。同大統領は今月、ウクライナは深刻な汚職とロシアによる侵攻の双方と平行して戦うと断言した。

2019年にウクライナから汚職を一掃することを公約して大統領に当選し、戦時の指導者となった俳優出身のゼレンスキー氏は、毎晩行っている演説の中で「改革の物語は進行中だ」と述べた。

「このような戦火の下でも、改革は止らない」

専門家や当局者によれば、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月24日以降も汚職対策の取組みは続いており、SAPOに新たな長官を迎えた夏以降、さらに強化された。

オレクサンドル・クリメンコ新SAPO長官は7月に就任した。選任委員会はすでに半年前に同氏を長官に指名していたが、就任に向けた正式な署名は行われておらず、ゼレンスキー大統領が任命の承認を公式に要請していた。

このときゼレンスキー大統領は、「正式なトップがいなければ、SAPOのような機関はきちんとした機能を果たせない」と述べた。

クリメンコ長官は力強い行政手腕を発揮し、棚ざらしになっていたいくつかの捜査を再起動させ、新たな案件にも着手したと関係者は明かす。

たとえばSAPOは9月末、クリメンコ長官が、消費者に電力料金を過払いさせたとされる制度をめぐる捜査を再開したと発表した。捜査が停滞していた時期のSAPO検察官の談話によれば、この捜査は手続上のミスや欠陥により、この2年間中断と再開を繰り返していた。

捜査再開の発表の中で、クリメンコ長官のオフィスは、検察官による事件資料の検証が徹底されていなかったとして、新たな捜査チームを任命したと表明した。この事件では少なくとも15人が容疑者とされ、その大半は現役又は元職の当局者だという。

10月末、SAPO当局者はこの事件に関連して、容疑者に捜査対象であることを通知する捜査通告を新たに発行したと発表した。

政府系石油会社から3億5000万ドル以上を横領する計画があったとする事件では、検察官らは9月はじめ、2020年初頭からSAPOによる承認待ちの状態にあった捜査通告を8人に対して発行した。

新たに開始されたものとしては、国税当局の元トップが2000万ドル以上の賄賂を受け取っていた疑惑に関する捜査がある。ロイターではこの元トップにコメントを求めようとしたが、連絡が取れなかった。

SAPOの広報官は、クリメンコ長官は任務についてコメントできる態勢にないとしている。また、個別の事件や最近の活発な捜査についてはコメントを控えるとしつつ、現在、姉妹組織であるウクライナ国家汚職対策局(NABU)と共に693件に取り組んでいると表明した。

<好待遇の検察官>

ロシアとの戦争のために数十億ドル相当の兵器をウクライナに供給している米国は、汚職根絶に向けてウクライナ政府が続けている取組みも支援している。

米国務省の広報官は、「困難な紛争状況の中にありながら、説明責任を確立しようとしているウクライナ政府と積極的にやり取りしている」と述べた。

ウクライナ復興プロジェクトはもっぱら他国からの支援頼みとなる。その規模は支援国が算定中だが、相当の規模に膨れあがる見通しだ。

ウクライナ中央銀行のピシュニー総裁は今月、来年度は直接的な財政支援だけでもEUから180億ユーロ(2兆5380億円)、米国政府から100億ドルが提供されると予想していると述べた。

ウクライナにおける汚職の撲滅は容易ではないとみられている。専門家によれば、同国における汚職の大半は旧ソ連崩壊に続く混乱に根ざしている。

近年では改善が見られるとはいえ、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が発表した最新の腐敗認識指数では、ウクライナは180カ国中122位にとどまっている。

TIウクライナ支部でエグゼクティブ・ディレクターを務めるアンドリー・ボロビク氏は、現在の汚職対策の取組みを歓迎。その一方で、その成否を測るには、有罪判決の数や、汚職による違法所得をどれだけ回収できるか、さらには資産申告制度の執行状況を見ることになると話す。

「最終的にどのような成果が得られるかを見る必要がある」とボロビク氏はロイターに語った。

2014年の「マイダン」革命によってウクライナの親欧州路線が確定し、ウクライナ政府が反汚職キャンペーンに乗り出して以来、その成否はかつてないほどに重視されている。

SAPO、NABUはいずれも2015年に設立された。SAPOはNABUが開始した捜査を監督し、2019年に稼働し始めた反汚職裁判所への起訴を行う。

SAPO、NABU、反汚職裁判所は一体となって、ウクライナにおける反汚職法の執行を担っている。専門家チームの集合体であり、職員は比較的高い給与を得ている。

たとえばSAPO検察官の給与は最低でも月2500ドルで、ウクライナにおける平均給与の6倍に当たる。業務は息つく暇もない。SAPOでは現在、新たに検察官8人の採用を進めている。

NABUも新たな局長を探しているところだ。EUは、このポストがウクライナの汚職対策の取組みの鍵となると述べている。

<国民も注目>

戦火による混乱の中でも、反汚職当局の生産性はこれまでの数年に比べて高い、と指摘するのは、キーウの反腐敗行動センターでエグゼクティブ・ディレクター代理を務めるオレナ・シュシェルバン氏。同機関は西側諸国から運営資金の一部を得ている非営利のシンクタンクで、改革支持のキャンペーンを行い、ウクライナにおける反汚職対策の進捗状況を追跡している。

「NABUもSAPOも、現在は過去数年を合わせたよりも効果的な取組みを進めている」とシュシェルバン氏は言う。

ウクライナ政府の反汚職当局も、西側諸国の目を意識している。

SAPO選任委員会に参加した市民活動家のカテリーナ・ブトコ氏は、ウクライナにおける贈収賄対策の足取りが鈍ることは多い、と認める。さらに、支援国には、確固たる政策ガイダンスの提供を通じてウクライナの汚職対策を成功させるべき明確なインセンティブがある、と指摘する。

「我が国における汚職対策の仕組みが機能することが、西側の資金が盗用されないための保証になるからだ」とブトコ氏は言う。

このところ戦場ではウクライナ側が勝利を重ねており、対ロ戦争に勝利して復興を成功させることができるという期待が高まる中で、一般のウクライナ国民も汚職対策に注目している。

キーウ国際社会学研究所が10月に行った調査では、ウクライナ国民の少なくとも88%が、10年以内のEU加盟は有望であると考えていることが分かった。

友人とともに市中に飾られたクリスマスツリーを見物に訪れたキーウ市民のカタリーナさん(27)は、軍事的な勝利を確保することがウクライナにとって最優先事項だと話す。

同時に、誰もが法に従わなければならないという明確な感覚が浸透した公正な社会を築くことも大切だと語った。

「この国では、そういう理解がまだ広がっていない」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
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