ニュース速報

アングル:香港デモ参加者、「生きるか死ぬか」背水の陣

2019年08月31日(土)08時32分

[香港 28日 ロイター] - 香港政府の市民への対応に憤慨したジェーソン・ツェーさん(32)は、オーストラリアでの仕事を辞めて飛行機に飛び乗り、香港に戻って抗議活動に参加した。今回の活動は香港の将来のための生きるか死ぬかの闘いだと確信しているという。

香港は今、中国政府の圧力で高度な自治を失いかねないとの強い危機感を抱いた市民たちによる抗議活動に揺れている。

香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は27日、警察の暴力を調べる独立調査委員会の設置を求めるデモ隊の要求は受け入れられないと改めて表明した。中国政府は香港に隣接する深センに武装警察部隊を駐留させている。

「今しかない。だから香港に帰ってきた」

ツェーさんはこう話し、先月に抗議活動に合流して以来デモには平和的に参加してきたと強調した。「今回成功しなければ香港は言論の自由、人権、全てを失う。抵抗しなくちゃいけない」

2014年に民主化デモが当局に強制排除された後、中国政府に対する抗議行動は退潮していた。

「闘い続ける必要がある。一番恐ろしいのは中国政府だ」と、ある教師(40)は匿名を条件に訴えた。「われわれにとっては生きるか死ぬかの状況だ」

<死なばもろとも>

中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案への抗議として始まった市民の活動は、幅広い民主化要求に発展している。

「14年(の「雨傘運動」)は、手ひどい敗北だった。今回、暴力的手段の行使をも主張する参加者がいなければ、改正案はもう議会を通過していただろう」と、マイクとだけ名乗る30歳の抗議参加者は話した。

メディアで働き両親と住んでいるというこの男性は、おおむね平和的な抗議行動だった雨傘運動が結局、活動家リーダーらの投獄につながったことに言及。「ある程度の暴力的行動は有効だということの証明だ」と話した。

逮捕者は既に900人近くに達している。禁錮刑を受ければ長期収監される見通しにもかかわらず、民主化を要求する活動家にひるむ様子は見られない。

参加者の多くはアパートの狭い部屋で家族と暮らす生活だ。抗議活動現場の1つでは、近くに「家も監獄みたいなものだ。収監など怖いものか」との落書きがあった。香港では賃貸アパートをシェアした場合のごく狭い部屋の家賃が月7000香港ドル(約9万4000円)ということもある。

抗議デモは習近平国家主席を直撃しており、中国政府は暴力を伴う抗議デモを鎮圧するため武力をもって介入することはあり得ると明確なメッセージを送っている。

デモでは参加者らが「今しかない」と叫んでいる。しかし、中国政府が弾圧に動けば、中国本土では夢でしかない香港の自由など終わってしまうかもしれないと、疑問を投げ掛ける向きもある。

抗議活動は、参加者たちの香港の将来に対する不安感の表れでもある。香港返還時に多くはよちよち歩きの子どもだった参加者たちは、自分たちにはいかなる政治的な表現手段も認められていないと感じており、普通選挙を求めるほかに手はないと考えている。

サービス業で働くチェンさん(28)は「立ち上がって政府を倒すか、政府のいいようにされるかだ。選択の余地はない」と話す。

「今回失敗することを想像してみてほしい。共産党の独裁が強まることしか考えられないだろう。死なばもろともだ」とし、香港の「高度の自治」を認めた中英の合意が返還から50年後の2047年に失効することを念頭に、「時間はなくなりつつある」と付け加えた。

<香港は中国ではない>

中国政府は香港を中国本土に取り込もうとしているが、住民の間では反発が強まっている。

香港大学が1015人を対象にした6月の調査によると、自分は香港人との回答は53%に上った。中国人と回答した比率は11%と、香港返還の1997年以来で最低だった。

世界で最も物価が高い都市の1つである香港では持ち家は夢でしかなく、中国政府が締め付けを強める中、不満を募らせる若者の多くは将来への期待などほとんどないと訴える。

「実際のところ、私たちには失うものが何もない」と、翻訳家のスカーレットさん(23)は話した。

街中至るところの落書きは、抗議活動の参加者たちの反抗心を示している。「香港は中国ではない」、「平和を望むなら戦いに備えよ」といったメッセージも見かける。

前出のツェーさんは、香港政府が平和的な抗議活動にほとんど耳を貸さない以上、暴力的行動は致し方ないのではと考えている。

「戦術的には、暴力のエスカレートもありだと思う。軍事的組織がどうしても必要になるなら、自分は加わると妻には伝えてある」と話した。

(Marius Zaharia記者、Anne Marie Roantree記者)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

加州高速鉄道計画、補助金なしで続行へ 政権への訴訟

ワールド

コソボ議会選、与党勝利 クルティ首相「迅速な新政権

ワールド

訂正中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 30

ビジネス

中国、無人航空機を正式規制 改正法来年7月施行
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中