コラム

安保法案が憲法違反なら憲法を改正するしかない

2015年06月11日(木)14時49分

 国会の憲法審査会で自民党の推薦した長谷部恭男氏(早稲田大学教授)が「安保法案は憲法違反だ」と発言したことで、法案の今国会成立が危うくなってきた。普通は与党推薦の参考人が与党の法案に反対することは考えられないが、これは依頼した自民党が悪い。

 長谷部氏は以前から、早稲田大学のウェブサイトなどで「集団的自衛権は、日本を防衛するための必要最小限度の実力の行使とは言えないため、憲法の認めるところではない」という立場に賛成しており、与党の参考人となりえないことは明白だった。

 これまで長谷部氏は自衛隊については「解釈改憲」を容認する立場で、特定秘密保護法にも賛成したので、自民党は味方だと思ったのだろうが、彼はすでに学問的に違憲とする見解を表明していたので、それと矛盾する意見はいえない。普通は参考人を依頼されたとき「私は反対だけどいいんですか」ときくと思うが、あえて問題提起しようと考えたのだろう。

 厳密な法律論でいえば、安保法制ばかりでなく、自衛隊も日米安保条約も憲法違反である。憲法第9条第2項では「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と書いている。政府見解では、自衛隊は戦力ではなく「自衛のための必要最小限度の実力」ということになっているが、戦車や戦闘機が戦力ではないなら何なのか。

 さらに第9条第2項は「国の交戦権は、これを認めない」と書いているので、自衛隊は存在が許されても交戦できない。安保条約については、1959年の砂川事件判決で最高裁が合憲という判断を出したが、自衛隊の合憲性については確定判決が出ていない。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ・カンボジア、24日に停戦協議 ASEAN外相

ビジネス

中国万科、債権者が社債の返済猶予延長を承認 償還延

ワールド

中国、萩生田氏の訪台に抗議

ビジネス

焦点:人民元国際化に低金利の追い風、起債や融資が拡
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story