「初めてカメラを持ち、被写体を撮る練習の様子」(写真提供:Sudharak Olwe)
カーストとは、インドに根付く社会的な身分制である。数千年の歴史のなかで形成され、結婚・食事・職業などを生まれから規制し、今なお影響を与え続けている。しかしカーストという語は、もともとインドにはなかった。
16世紀の大航海時代に、ポルトガルの航海者がインドで目にした社会慣習に付けた「カスタ」(casta)に由来する。カスタは、ラテン語で「カストゥス」(castus)の「混ざってはならないもの、純血」から派生し、「血筋、人種、種」を意味する。
ヨーロッパ人が名付けたカーストには、現地社会の2つの概念が含まれている。それは「生まれ」を意味する「ジャーティ」(jati)と「色」を意味する「ヴァルナ」(varna)だ。両者が、経糸と緯糸のように組み合わさっているのがカースト全体のイメージだ。
ジャーティとは、分業体制に基づいた相互依存的な人間関係である。職業を代々世襲し、結婚関係は親が取り決めるなど閉鎖的な各集団のあいだで、生産物やサービスのやり取りが行われていた。
どのジャーティに帰属するのかは生まれによって決まり、個人が自由に変更することはできない。子供は親と同じジャーティに属する。ジャーティには食事の規制もある。自分より低いジャーティと一緒に食事をしない。水や食べ物を受け取らないなどの規制がある。こうしたことによって他集団と自らを区別し、各集団間に身分上の序列関係を認めている。
一方、ヴァルナは、紀元前1500年から紀元前1200年にかけて、北方からインド亜大陸に進出したアーリヤ人が自分たちよりも肌の色の黒い先住民と自集団を区別するために用いられた言葉と言われる。
浄/不浄の観念によって階層化された頂点のバラモン(祭官階層)、クシャトリヤ(王侯・武人階層)、ヴァイシャ(平民階層)、シュードラ(上位三ヴァルナに奉仕する隷属民階層)と下るにつれて、不浄の度合いが増す4階層からなる。紀元後数世紀には、シュードラの下にさらに「不可触民」というカテゴリーが付け加えられた。
日本では歴史教科書に記され、一般に理解されるカースト制はこれだろう。ただし、ヴァルナは古代インドのサンスクリット古典籍に記された社会階層概念であり、実体的なものではなかった。
ヴァルナが現実のインド社会に影響を与えるようになったのは、イギリスによる植民地支配の時代に、古代サンスクリット文献が積極的に参照、利用されるようになったからだ。それは19世紀以降と考えられている。