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インド社会

インドでは今も身元を隠せない...「不可触民」ダリトが直面する差別と「草の根」のパワー

2025年08月06日(水)11時00分
鈴木真弥(大東文化大学国際関係学部准教授)

映画『燃えあがる女性記者たち』予告編 | シネマトゥデイ

日本で2023年に公開されたドキュメンタリー映画『燃えあがる女性記者たち』(Writing with Fire) は農村の若いダリト女性たちの活動を映像化している。多くの著名な国際映画祭で受賞し、高い評価を受けた作品だ。

関連して、下記の写真は写真家・ジャーナリストのスダラク・オールウェー氏の作品である。インド文化で色が持つ意味を写真に込めて、ダリトの写真をあえて白黒で撮り続けている。インドで白は「清浄、可触民」を表すのに対して、黒は「不浄、不可触民、悪」を意味するという。

2015年5月マハーラーシュトラ州にて、カースト差別による暴力事件で、24歳の息子(当時は看護学校の学生)を亡くした家族

「2015年5月マハーラーシュトラ州にて、カースト差別による暴力事件で、24歳の息子(当時は看護学校の学生)を亡くした家族」(写真提供:Sudharak Olwe)

この写真には、2015年5月に西インドのマハーラーシュトラ州で起きたカースト差別による暴力事件で、24歳の息子サーガル(当時は看護学校の学生)を亡くした家族が写っている。

サーガルは、不可触民解放運動の指導者アンベードカルの賛歌を携帯電話の着信音にしていたところ、偶然にその曲を聞いた上位カーストの若者グループと口論になり、残忍に殺害された。看護師の実習期間を終了するまであと1カ月だった。残された家族は、彼にすべての希望を託していた。

ダリト出身のオールウェー氏は「レジリエンス(回復力)」をキーワードに、差別に苦しむ人びとの写真を撮ることで、現状への疑問と正義を求める草の根ジャーナリズムの若手育成に取り組んでいる。

2005年に非営利団体Photography Promotion Trustを設立し、人口の約7割が暮らす農村部を中心に教育活動を行なっている。

インドの過去・現在・未来は、こうした無数の草の根のパワーが引き起こす社会変革とともにあることを忘れてはならない。この原稿を書きながら、さっそく次の渡航が待ち遠しい思いに駆られている。


鈴木真弥(Maya Suzuki)
1976年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。専門は社会学、インド地域研究。主な著書に『現代インドのカーストと不可触民』(慶應義塾大学出版会、アジア・太平洋賞特別賞、樫山純三賞)、『カーストとは何か』(中央公論新社)など。


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