アステイオン

座談会

アメリカが「世界の警察官」をやめる転換点は、いつだったのか?

2025年07月02日(水)11時00分
池内 恵+廣瀬陽子+森 聡+北岡伸一(構成:石本凌也)

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本座談会は2025年1月19日に都内で行われた。左より池内恵・東京大学先端科学技術研究センター教授、廣瀬陽子・慶應義塾大学総合政策学部教授、北岡伸一・国際協力機構顧問、森聡・慶應義塾大学法学部教授 撮影はすべて河内彩

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北岡 それは究極の問題ですね。

ここで東アジアに話を移しますが、台湾有事に対するアメリカの立場はどうでしょうか。個人的には、台湾を守らなくてはいけないと考えている人はかなり少ないという印象を持っています。

 アメリカの世論調査をみると、中国が台湾を侵攻した場合に「アメリカは派兵して守るべき」と考える人の割合は徐々に増加しており、シカゴ世界問題評議会の調査では50%を超えています。

しかし、中国との全面戦争に突入し、出口の見えない武力紛争を覚悟してまで台湾を守るべきかと問われれば、賛成する人は少ないと思います。

第2次トランプ政権の台湾政策はまだ不透明ですが、防衛力強化支援という面では大きな方針転換はないと見られています。

昨年秋に、第1次トランプ政権時に台湾問題を担当していた実務家と意見交換した際にも、台湾への武器売却や非対称的な防衛力強化の支援は第一次トランプ政権からバイデン政権に引き継がれ、第2次トランプ政権でも粛々と継続される可能性が高いと話していました。

他方、トランプ大統領が台湾をアメリカの死活的な利益とみなすかには疑問が残ります。トランプの外交・安全保障チームは台湾を安全保障問題ととらえていますが、トランプ自身は「台湾はアメリカから半導体産業を奪った」と発言するなど、経済・技術上の視点から台湾をとらえているようです。

選挙期間中に「中国が台湾に侵攻したらどう対応するか」と何度か質問されていますが、「中国に200%の追加関税を課す」とか、「対応方針は明らかにしたくない」と繰り返すだけで、具体的な戦略は依然として不透明です。

北岡 同盟には、共通の敵がいる一方で、やはり何かの理念があるものです。しかしトランプ大統領は台湾防衛については、あまりそういうことを言わない。理念面での関心が非常に薄いように思います。

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