アステイオン

座談会

ウクライナ・中東・アメリカ...「リベラルな国際秩序」の危機と再構築をめぐる対話

2025年07月02日(水)10時55分
池内 恵+廣瀬陽子+森 聡+北岡伸一(構成:石本凌也)

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本座談会は2025年1月19日に都内で行われた。左より池内恵・東京大学先端科学技術研究センター教授、廣瀬陽子・慶應義塾大学総合政策学部教授、北岡伸一・国際協力機構顧問、森聡・慶應義塾大学法学部教授 撮影はすべて河内彩

北岡 主権国家のリーダーたちはアブラハム合意で安定すると思っていたのかもしれませんが、一般市民を納得させるのは大変だろうとは私も思っていました。やはり、パレスチナ問題の解決は難しいのでしょう。

池内 パレスチナ問題は、トルコの勢力圏が広がっていく中で、どこかでひょうたんから駒のように、ぽこっとささやかな国家ができれば解決するし、できなければずっとこのままだと思います。オスマン帝国のような、主権を超えた大きな帝国的な秩序の正当性が認められれば、パレスチナ問題は消滅します。

これまで考えていたような解決がなされないと、中長期的将来像の問題は残ります。たとえば、非常に小規模な形での独立、あるいはより大きな新たな地域秩序の中で、半分主権がある状態にとどめるという別の枠組みの新たな秩序理念です。

その秩序を構成する勢力は旧来型の、前近代型の帝国に由来する勢力になります。そして、イスラエルがその中で生き延びられるのかというのは別問題です。これはかなり先の話ですが、地域の内在的論理の中でイスラエルが許容されるかどうかという問題に変わっていくと思います。


※中編:アメリカが「世界の警察官」をやめる転換点は、いつだったのか? に続く


構成:石本凌也(北海道教育大学教育学部函館校講師)

[注]
(*)ロシアと北朝鮮は昨年「包括的戦略パートナーシップ協定」を締結し、軍事協力を本格化する中で、これまでに1万1000〜1万2000人の北朝鮮兵がロシアに派遣されている。ロシア極東ではさらに約3500人が訓練中で、追加派兵は最大5000人に上る可能性がある。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、数百人の中国人兵士がロシア軍に参加していると指摘した。多くはSNSなどで募集された金銭目的の雇い兵とみられるが、一部については、中国軍将校が戦術学習のために参加しているとの見方もある。


池内 恵(Satoshi Ikeuchi)
1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。国際日本文化研究センター准教授などを経て、東京大学先端科学技術研究センター教授。専門は中東研究。著書に『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、サントリー学芸賞)など多数。

廣瀬陽子(Yoko Hirose)
1972年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。政策・メディア博士(慶應義塾大学)。慶應義塾大学総合政策学部教授。専門は国際政治、旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。著書に『ハイブリッド戦争──ロシアの新しい国家戦略』(講談社現代新書)など多数。

森 聡(Satoru Mori)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。外務省を経て、東京大学大学院法学政治学研究科で博士号取得。法政大学法学部教授などを経て、慶應義塾大学法学部教授。専門は現代アメリカの外交・防衛。著書に『ヴェトナム戦争と同盟外交』(東京大学出版会)など。

北岡伸一(Shinichi Kitaoka)
1948年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。専門は日本政治外交史。東京大学教授、国連大使、国際協力機構〔JICA〕理事長を経て現在、国際協力機構顧問。著書に『清沢洌──日米関係への洞察』(中公新書、サントリー学芸賞)など多数。


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