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2021年から2024年9月まで行われた「自由主義国際秩序の再建と日本の役割」研究会を振り返り、メンバーの廣瀬陽子・慶應義塾大学総合政策学部教授と森聡・慶應義塾大学法学部教授、ゲストの池内恵・東京大学先端科学技術研究センター教授に本研究会主査の北岡伸一・国際協力機構顧問が聞く(座談会開催は本年1月19日)。
北岡 戦後維持されてきた自由主義的な国際秩序が危機に瀕しています。この研究会を立ち上げたのは2021年11月でしたが、同年2月にはミャンマーのクーデター、8月にはアフガニスタンの崩壊があり、翌2022年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。
こうした状況において、自由主義国際秩序を再建、あるいは維持できる方法はあるのか、というのがこの研究会の課題でした。まずはこの間の主な出来事を、その節目に着目しながら振り返っていきたいと思います。はじめにウクライナについて、廣瀬先生、いかがでしょうか。
廣瀬 世界にとって、2つの驚きがあったと思います。1つは、言うまでもなくロシアが侵攻したという事実です。2つ目は、ウクライナがあれほどまでに勇敢に戦ってきたということです。
ロシアの侵攻開始直後には、戦争はすぐ終わるだろうと考える向きが多かったのですが、ウクライナが一国で怯まずに戦ったこと、またウクライナのこの戦争は民主主義を守る戦いだという主張も多くの人々の心を掴み、侵攻開始3カ月くらいから、欧米も熱心にウクライナに対して軍事支援を行うようになりました。
最初は重火器の差などから、ロシアがかなり優勢でしたが、2022年9月頃からウクライナの反転攻勢が始まりました。そこでロシアは「部分的動員令」を出したものの、国内で相当の反発を生み、多くの若者が国外流出したことから、動員の難しさを認識しました。その後は、戦いが泥沼化していきます。
なかでもドイツが「レオパルト2(戦車)」の供与を決めた2023年1月は1つの節目といえます。ドイツが戦車を出さないとヨーロッパ諸国も出せないというところで、ドイツが供与を決め、多数の戦車をウクライナが受け取れるようになりました。それでも戦闘はだらだらと続いていくことになるのですが......。
同年8月以降の戦闘機の供与決定も大きな節目といえますが、パイロットの訓練が容易ではなく、また戦闘機の機数もまだまだ少ないことから、戦況にはあまり影響が出ていないといって良いでしょう。
北岡 一時期、ウクライナの反転攻勢といわれましたが、結局あまりうまくいきませんでした。その後、昨年2024年8月には、ウクライナは国境を越え、ロシア西部の都市クルスクで攻撃を始めます。一方ロシアは、北朝鮮の兵隊まで使うようになりました。