アステイオン

座談会

ウクライナ・中東・アメリカ...「リベラルな国際秩序」の危機と再構築をめぐる対話

2025年07月02日(水)10時55分
池内 恵+廣瀬陽子+森 聡+北岡伸一(構成:石本凌也)

中東情勢

池内 自由主義国際秩序の揺らぎという文脈の中で画期となる日をいくつか挙げるとすると、例えば、アブラハム合意が発表された2020年8月13日、そしてイスラエル・ガザ紛争が勃発した2023年10月7日、さらには、シリアのアサド政権が崩壊した2024年12月8日になります。

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これまで中東には、3つのトレンドがありました。

1つ目は、かなり長期的なもので、非国家主体が強力で、主権国家を内側から揺るがすような動きがあることです。2つ目は地域の中でいくつかの有力な国々、地域大国が台頭していること。そして3つ目がアメリカの覇権です。中東においてアメリカが圧倒的な軍事力によって覇権を確立し、それを背景とした政治力を行使して秩序を形成してきました。

その3つ目が揺らいでいます。アメリカの軍事力は依然として圧倒的に大きいにしても、それを背景にした政治力を世界の各地域で行使する意思や、その持続性・安定性に対して、行使を受ける地域の側から疑いの目が向けられています。

この疑念が顕著に現れることになったのが、2024年の多くの期間にわたって、アメリカがレームダックに陥っていると広く認識された事象です。

北岡 そのアメリカのレームダックというのは、中東、とりわけイスラエルをコントロールする能力におけるレームダックということですか。

池内 その通りです。バイデン大統領はそもそも非常に高齢で2期目がないかもしれない、そしてトランプが戻ってくることも予想されていたため、中東ではバイデン政権の4年間はかなり早い段階からレームダック的なものとして受け止められていました。

そして、実際にバイデンが2024年7月に選挙戦から正式に撤退したことで、完全にレームダック化したわけです。

中東の親米政権も反米政権も、次のアメリカ大統領が就任するまでの半年間、何の圧力もないとみなす点では一致しました。非国家主体も、地域の有力国も自由に動けるようになり、自らが得たいものを得る競争が加速してしまったのです。

実際、2024年7月以降、イスラエルによるヒズボラへの攻撃の烈度はこれまでにない次元に高まりました。テヘランでハマスの指導者を殺害し、イランとの直接的な軍事的対決も辞さないという姿勢まで示すようになりました。

そうした中で、大統領選挙でトランプが勝利し、アメリカの「レームダックの終わり」が見えたことにより、いわば駆け込みのように、イスラエルの動きがさらに加速しました。

イスラエルは、地域大国のライバルであるイランやイラン系の勢力ヒズボラにこれまでにない圧力をかけ、イラン系の非国家主体を殲滅する動きをとるようになりました。

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