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座談会

中露に挟まれたモンゴルの「アンダ」(戦略的パートナーシップ)とは──モンゴルから中華を見る[後編]

2023年06月07日(水)10時57分
小長谷有紀+岡本隆司+田所昌幸 構成:荻 恵里子(京都府立大学共同研究員)

小長谷 中国にいるモンゴル人は気概はありますが、危険にさらされています。ですので、留学できるチャンスがあるならば、たとえば十年ぐらい留学して帰国しない人もいます。

その人の両親は故郷でいじめられ、締めつけられますが、「自分が痛めつけられても我慢するから、帰ってくるな」と次世代のことを考えてるようです。

私は日本モンゴル学会の会長になった時に、学会として中国の言語政策に対して日本語とモンゴル語で声明文を出しました。

何の効果もないだろうと思っていたのですが、「外には理解してくれる人がいるのだ」と、耐え忍び、秘めて戦う人々の心の支えになっていたようです。

後にその話を聞いて、「ああ、よかったな」と、黙っているよりも声を上げることに意味があると思いました。モンゴル国の人を含めて、外にいる人はみんなそのような気持ちで支援していると思います。

しかし、モンゴル国の場合は、中国がこければモンゴルもこけるという経済状況です。ですから中国の文化政策とは別に経済政策については、しっかりやっておいてもらいたいという期待はあると思います。

戦略的パートナーシップ

小長谷 モンゴルは中国だけではなく、ロシアにも挟まれている世界有数の資源国です。

いつも冗談で言っていますが、モンゴルから一番日本に輸入してほしいのは外交官です。日本人と顔がそっくり、かつロシアと中国と渡り合えるような交渉力を持っているので最強です。

小国にとって、大国同士が対立しているのはいい時代でした。大国を相手に交渉しうるからです。かつて社会主義時代は中ソ対立、米ソ対立の中で、モンゴルはそうやって交渉してきました。

今、非常に難しくなっているのは、中露が戦略的パートナーシップの関係にあるということです。敵だけど仕方ないから仲よくするという戦略的パートナーシップが近年、本当に強化されています。

中露が対立していたときはおねだりできましたが、今は両国と仲よくしながら、どちらにも顔が立つ外交をしなくてはなりません。

岡本 それはモンゴルにとっては、新しい外交戦略なのでしょうか。

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