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どの時代にも、その時代特有の思想の「磁場」が存在する。その中心には、特定の時期、特定の社会の構成員たち――それが多数の人々であれ、少数だが力を持っている人々であれ――の間に共有される、「正しさ」や「望ましい社会」の条件に関する理念のセットがある。
もちろん、多様な思想潮流が共存する社会であれば、このような理念のセットは複数存在する。その場合、一つ一つのスタンスはそれぞれ求心力を発する磁石のような働きをする。
そして当然ながら、思想の磁石は人々を引き付ける。いくつかの競合する磁石たちは互いに押したり引いたりしながら、その時代の固有の磁場を描いていく。何らかの理由で特定の磁石の力が強まったり弱まったりすると、磁場全体の構図が揺らぎ、新しい条件の下で新しいバランスが構築されていく。
戦後の日本の思想的磁場において、長らく強い力を発揮し続けた二つの磁石は、「保守」と「革新」であった。政党政治から労働運動、知識人のネットワークに至るまで、戦後の主要な思想的・政治的ダイナミクスは、保革対立の磁場の影響を受けていた。
しかし、保革対立をメイン・テーマにする知性史は、両極の「間」を舞台として繰り広げられた思想的営為を見逃しがちである。その「間」の幅は案外広く、社会の多方面に影響を及ぼした豊かな議論の地盤になっていたのではないか。
このような問題意識に基づいて、保守と革新の「間」に生成した知的領域を「リベラル・モダニスト」たちの軌跡を中心に検討する本が、待鳥聡史・宇野重規共編著『<やわらかい近代>の日本――リベラル・モダニストたちの肖像』(弘文堂、2025年)である。
本書に登場する「リベラル・モダニスト」たちは、世代的にも、経歴や専門領域においても、実に多様である。具体的には、和辻哲郎、小林秀雄、丸山眞男、永井陽之助、黒川紀章、村上泰亮、山崎正和、香山健一、佐々木毅といった人々が取り上げられる。
彼らは、合理的近代化を肯定する点で保守主義や反動主義と対比される一方、急進的な体制変革ではなく漸進的な体制内改革を志向する点でマルクス主義とも一線を画す。
左右のどちら側との線引きをより重視するのかは、論者や争点によって様々である。だが、左右の両側とも対峙する立場にあるため、保守主義からは「左派」、革新勢力からは「体制擁護派」と呼ばれるのは、彼らの共通した宿命である。