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座談会

中露に挟まれたモンゴルの「アンダ」(戦略的パートナーシップ)とは──モンゴルから中華を見る[後編]

2023年06月07日(水)10時57分
小長谷有紀+岡本隆司+田所昌幸 構成:荻 恵里子(京都府立大学共同研究員)

小長谷 実は戦略的パートナーシップは、チンギス・ハン時代から紐解くことができます。モンゴル語にアンダという言葉があります。辞書を引くと「友達」という意味ですが、いわゆる戦略的パートナーシップです。

チンギス・ハンのライバルであった武将ジャムカとチンギス・ハンは子供のときから、生涯のうち3回、アンダしています。物などプレゼントし合って、「友人だよね、僕たち」と同盟関係を認め合います。しかし、それは逆に言うと友達ではないということですよね。本当は敵だけど手を打とう、と。

そういう戦略的パートナーシップがモンゴル語のアンダです。最後にチンギス・ハンはジャムカを倒し、統一していきます。言い換えれば『元朝秘史』は、実は現代政治を理解する上でも、国際政治を理解する上でも非常に面白く、参考になる物語です。

遊牧社会と社会主義との親和性

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田所 遊牧社会の生活からソ連的な社会主義に変動が生じたときには何が起こったのでしょうか。

小長谷 遊牧社会が社会主義と断然なじむのは、土地がコモンズだからです。みんなのものなので、元祖共産主義と言えます。

資本主義国の一番の投資先となる土地・不動産は、持つ者と持たざる者で確実に差がつきますが、動産は雪害によって一瞬にリセットボタンが押され、ゼロになってしまいます。つまり動産社会では富の蓄積がありません。富がすべて生き物なので。

土地がコモンズで人はアクセスするだけなので、社会主義と親和性があります。

では、富の蓄積はまったくなかったのかと言えば、ありました。それはお寺です。チベット仏教になくモンゴル仏教にだけあるのが人の寄附です。モンゴルでは属人支配で人が財産なので、家畜といっしょに遊牧民を労働力として寄附して遊牧をやっていました。

田所 なるほど。土地を寄進する代わりに人と家畜を寄進していたのですね。

小長谷 はい。そのような富が蓄積しているところが社会主義時代にはコルホーズになります。お坊さんはパージされますが、そこにあった家畜は協同組合の名目のもとで管理していったのです。

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