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1959年に発売されたバービー人形をモチーフとした映画『バービー』(Barbie 、2023)は「フェミニズム映画」とも呼ばれている。
バービーブランドが掲げるメッセージ「"You Can Be Anything"(何にだってなれる)」も、女性たちの無限の可能性を鼓舞するフェミニズム的なメッセージといえるだろう。
実際、バービー人形の「生みの親」として知られるルース・ハンドラーは、女児向けの玩具といえば赤ちゃん人形くらいしかなかった時代――つまり女の子は「母」となって遊ぶほかなかった時代――に、まったく新しいコンセプトのもとバービー人形を作ったのだった。
しかし、バービー人形が常にフェミニズムの理想だったかといえば、そんなことはない。むしろフェミニズムの「敵」とされていた時代もある。
前例なき人形として開発され、そして前例なき大ヒットを飛ばしたからこそ、そこには複雑な歴史がある。そのため、バービー人形の歴史として、あるいは開発・販売元マテル社の歴史として、あるいはルースの歴史としてなど、少なからぬノンフィクションが書かれてきた。
そんななか今年1月、入念な調査のもとバービー人形の歴史を描いた長篇小説が上梓された。レニー・ローゼンの『この子の名前はバービー』(Renée Rosen, Let's Call Her Barbie[未訳])だ。
事実にもとづいているとはいえ、もちろん小説は現実ではない。とはいえ、小説だからこそ生き生きと描ける時代の空気のようなものもある。たとえば、1958年、女児をもつ母親たちに、発売前のバービー人形を試験的に見せた際の反応として、次のようなセリフが並んでいる。
①は、赤ちゃん人形しかなかった時代、大人の女性を模した人形への忌避感がよく出ている。小説序盤、ルースが人形のコンセプトを説明する場面でも、「おっぱいがある人形」を拒絶する社員たちが描かれている。
②からは、女性にとってもっぱら結婚が「ゴール」だと考えられていた時代の雰囲気がよくわかる。正確にいえば、現代小説として描き出す場合、こうしたセリフがリアリティをもつと思われるのが1958年となるだろう。