アステイオン

国際政治学

「個人の性格」を過小評価してきた国際政治学──ウクライナ戦争が提起する5つの論点(中)

2022年12月21日(水)08時12分
デイヴィッド・A・ウェルチ(ウォータールー大学教授)

プーチンのウクライナでの野心は、アレクサンドル・ドゥーギンといった三流の哲学者や、アレクサンドル・プロハーノフやイズボルスク・クラブのメンバーといった新ロシア国家主義者が原動力となり強化してきたことは相当はっきりしている。

彼らの考え方を全体としてみると、その理念は、以下のような世界観と結びついている。すべては道徳的に退廃し衰退しつつある西側世界の責任で、ロシアはまったく間違ったことをしていない、そしてロシアは自分たちの好まないルールには拘束されないというものである。

この世界観の中でとりわけ強力な理念として、ウクライナは「偽の国家」でありウクライナが1つの民族だというのはフィクションにすぎず、ウクライナの領土はロシア領であってしかるべきだというものがある。ウクライナ人はそう思ってはいない。

実際、これに対する反発が非常に強いので、ウクライナ人は侵略者ロシアを打ち負かし、正義が悪に勝利するために、いかなる代価も払う覚悟である。言い換えれば、ウクライナの世界観は、このようにまったくロシアとは相いれないのである。

4 国内政治は重要か。もしかすると......

もしロシアが民主主義国で、反政府派が投獄されたり追放されたりするのではなく、選挙を通じた政治的競争が可能で、しかも言論の自由があってウクライナにおける戦争について様々な意見が交わされたのなら、一体どうなっていたのだろう。

これは興味深い問いである。プーチンの「特別軍事作戦」が賢明かどうかについて激しい議論が交わされたのは、間違いないであろう。ことによると、侵攻そのものも起こっていないかもしれない。

多くのロシア人にとっては、「特別軍事作戦」は想像もできなかったし、もちろん歓迎すべからざることでもあった。しかしいったん侵攻が始まったら、事態がどれほど異なるものになったのかについては自信がない。

「国旗のもとへの結集」効果はよく知られている現象であり、いったん紛争が実存的あるいは愛国的なものとして提起されると、実質的な反対勢力は蒸発してしまう傾向がある。アメリカについてもベトナム戦争や2003年の対イラク戦争で同じことが見られた。

国内でこれを苦々しく思って反対する声もあったが、ジョンソン政権もニクソン政権もあるいはブッシュ政権も、この結集効果を利用した。せいぜい、ニクソン政権が1972年の大統領選挙を意識して、米軍のベトナムからの撤退交渉を妥結させようと熱心になった(もっともこれも思った通りの期限に間に合わなかったが)ことがあるくらいだ。しかし、このころにはベトナム戦争はいずれにせよ、どうしようもなく行き詰まっていた(※2)。

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