アステイオン

アメリカ

保守・リベラルで説明できなくなったアメリカ ──普遍国家の幻想崩れ、普通の「特殊な国」に

2021年01月27日(水)
会田弘継(関西大学客員教授・米論壇誌American Purpose編集委員)

scyther5-iStock.

米コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」は2021年の国際情勢を見通して「10大リスク」のNo.1はバイデン米大統領(民主党)だとする報告を発表した。昨年11月の大統領選挙で史上最多の8000万票以上を獲得し、538人の選挙人のうち306人と明らかな過半数を得ながらも、バイデンの政治基盤は脆弱だからだ。トランプ前大統領(共和党)も史上2番目の7400万票を得たうえ、最後まで選挙で不正が行われたと主張し続けた。そのため支持者の大部分が選挙は不正だと信じている。つまり、米国民の半数近くがバイデン新大統領には「正統性」がないとみているわけだ。連邦議会においても、新大統領の正統性を認めない有権者が同時に票を投じて送り込んだ共和党議員らが与党民主党と拮抗する。そんな政治的現実に向き合う指導者が主要先進国にいたためしはない、と報告はいう。

実際、そうした現実を象徴するように、1月6日、バイデン氏の当選を認めないトランプ支持者らが暴徒化し、連邦議会に乱入し多数の死傷者を出すという前代未聞の騒ぎになった。事件に絡みトランプ前大統領は、民主党優位の下院によって退任直前に「反乱を扇動」したとの理由で弾劾訴追された。在任中に2度も弾劾訴追された大統領は米国史上初めてだ。それでも「岩盤」とされる支持者らは揺るがない。トランプという大統領を生み出した米国の現実を見せつけたような出来事だ。

米国は依然、軍事・経済で世界最強の国家かもしれないが、先進民主主義諸国の中で「最も分断し、最も格差の激しい国」である。ユーラシア・グループの報告でさえも、そう認めざるを得ないのが今の米国だ。直面する課題は、バイデン新大統領の正統性や新政権の持続可能性だけでない。雇用をはじめ国民に経済的機会を与えることができていない。新大統領に挑む共和党自体が、トランプ退任後にどんな政党になっていくのかも分からない。問われているのは、ここにまで至った米国型の政治モデルそのものなのではないか、と報告はいう。米国型の自由に基づく民主主義そのものが、いま危機にあるのではないかという問いかけだ。問題はトランプなのではない。トランプを生み出すに至った構造なのではないか、ということだ。報告は1月6日の事件以前に書かれているが、事件も含めて考えるべき方向性を示唆している。

PAGE TOP