いま中国は、南シナ海の戦略的な要所であるスカボロー礁を掌握するうえで重要な時期に入っている。これである程度安心して、スカボロー礁を確保できるでろう。そうなると、南シナ海のほぼ全域が、中国の制空権と制海権に収まることを意味する。中国は圧倒的な戦略的優位を手に入れるのだ。

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 南シナ海で制海権と制空権を確保すれば、次に中国が集中的に攻勢をかけてくるのは、いうまでもなく東シナ海の尖閣諸島であろう。国際世論からの批判や、中国が保有する公船の数の制約を考慮して、これまでは南シナ海での制空権と制海権の確保を優先してきたが、南シナ海でのそれがひと段落すれば東シナ海に行動の方向性を転換していくであろう。ロシアが中国の背後で支援をして、アメリカが「トランプ大統領」の下で日本防衛とアジア関与の関心を失えば、中国は大きな抵抗を受けることなく、尖閣諸島の奪取と領有を可能とするであろう。その際には、当然ながら、日本は歴史を直視して反省するべきだと、歴史問題としてこの問題を国際世論にアピールするはずだ。

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 その結果として、おそらくは10年後には、東シナ海の制空権と制海権を確保して、日本の自衛隊は容易に東シナ海で活動ができなくなるかもしれない。

 そもそも、南シナ海で中国が活動を活発化させるようになる大きな契機が、1991年にフィリピンの議会が、冷戦終結後に米軍基地を閉鎖することを求めたことだった。そして、四半世紀が立ち、再びフィリピンは国民世論に迎合して、アメリカに「出ていけ」と言っている。外交が、国民感情や世論の犠牲になるという、典型的な例かもしれない。もちろん、その背後に、中国からの圧力がフィリピンのドゥテルテ大統領に対して存在していたのだろうと予測する。

 これらのすべての動きは、日本の安全保障やアジア太平洋の戦略環境を考えると、とても悲観的にならざるを得ない趨勢だ。もしも、これから東アジアの平和を考えるとすれば、南カリフォルニア大学のデイヴィッド・カン教授が述べているように、かつての中華帝国の時代の朝貢体制に見られたような、中国を中心とした緩やかな階層的な秩序に依拠しなければならなくなるのかもしれない。そのような安全保障環境の不透明性や、不安定性を考慮して、われわれは自らの安全保障政策を考える必要がある。

※当記事はブログ「細谷雄一の研究室から」から転載・改稿したものです。