[東京 23日 ロイター] - 最近の金融市場のリスク回避傾向は、英国民投票の影響だけではないかもしれない──。市場関係者の間でこんな疑念が浮上している。当面は超大国の歴史的選択が市場を左右するのは間違いないが、世界的な成長鈍化や日本の格下げ、中国景気不振といった不安の種が各地で萌芽しかけているためだ。そうした難局をうまく乗り切れない各国当局への不信やいらだちも透けて見える。
<予想不能のブレグジット、得られるのは「利益ではなくスリル」>
「ブレグジットに乗っ取られたグローバル市場」(ソシエテジェネラル)の困惑は極限に達している。予見不能な事態に流動性が急速に低下し、特段の手がかりなく突然急落、直後に急騰といった不安定な動きが頻発。普段は価格変動が収益源の投機筋ですら「この状況で参戦しても得られるのはスリルだけ。(収益を得る)トレードにならない」(ファンド)と苦々しい表情だ。
混乱を象徴するのが通貨オプション。リスク回避手段として需要が殺到し、ポンド/円の予想変動率は1カ月物でリーマン危機以来の32%まで上昇した。1カ月以内に上下3割変動するリスクを織り込む異例の水準は、ドル/円に当てはめれば円高なら70円、円安なら135円まで変動する可能性を示す。
欧州連合(EU)離脱で与党保守党が問題を収束させるどころか、分裂含みの大混乱に陥った事態。結果が残留だったとしても、深刻化した内政や市場の混乱収束にはしばらく時間がかかりそうだ。
<日本格下げリスク、FRB不信でドル調達コスト高>
一方で世界景気はけん引役だった米の苦戦、中国の鈍化など減速が顕著。国際通貨基金(IMF)や世界銀行は今年の成長見通しを下方修正した。据え置いた経済協力開発機構(OECD)も「世界は低成長の罠に陥った」と下振れに警鐘を鳴らす。
成長の下振れは当然、参加者の視線を懸念材料へ向かいやすくする。例えば日本では、消費増税見送りを受けた格下げリスクが話題のひとつだ。
国債は日銀と国内勢の買い支えで「金利上昇要因にはならない」(ドイツ証券チーフ金利ストラテジストの山下周氏)見通しだが、今回注目を集めているのは邦銀格付けへの影響。マイナス金利で収益機会が失われる中での格下げは大きな痛手となるためだ。
影響が及びそうなのはドル調達。外銀がクレジットリスクを厳格化すれば、調達コストは一段の上昇が不可避で、顧客である投資家や企業にコスト増が飛び火しかねない。特に地銀は外貨調達時に為替デリバティブを多様しており、影響が深刻との懸念もある。
世界最大の対外資産を有する日本は為替ヘッジが恒常的に必要で、調達コストが高止まりしやすい。アベノミクスが推進する海外投資や企業買収、金融規制で欧米銀がクレジットリスクを絞り込んでいることなども、複合的にコストを押し上げている。
ドル調達に関心が集まる根底には、米大統領選を控えた連邦準備理事会(FRB)への不信もある。日米欧中銀は欧州債務危機後にドル供給の枠組みを整えているが、あくまでその位置づけは危機対応。調達コストが上昇し続けても危機的状況にならなければ「銀行経営をまた手助けしていると大統領候補や議会に攻撃されることを恐れ、FRBが積極的にドルを出すことはない」(外銀幹部)。
<アジアで相次ぐ予想外の金融緩和、中国景気に猜疑心>
今月9日。アジア市場が主戦場のあるトレーダーは、韓国中銀の予想外の利下げに「またか」と吐き捨てた。4月のシンガポール、5月の豪とアジア・オセアニア地域ではこの数カ月、予想外の金融緩和が相次いでいる。各中銀はそれぞれの自国事情を説明するが、続出する不可解な事態に同氏は「当局はアジア経済に不穏な事態が発生する兆候をつかんでいながら隠しているのでは」と猜疑心を強めている。
綱渡りの構造改革を進める中国は資本流出に歯止めがかかり、今後直ちに急減速するとの見方は多くない。しかし政府が掲げる今年の成長目標6.5%─7%が「高すぎる」(東京大学の河合正弘教授)ことはほぼ自明。習近平政権が目標達成に躍起となって無用な刺激策を打てば、下振れ回避どころか不良債権再燃の懸念を一気に高めかねないリスクもはらむ。
<原油反落、産油国の資産売却に警戒>
火種はアジアにとどまらない。半年にわたり政権が樹立できていないスペインで26日に行われる総選挙では左派連合が優勢。緊縮財政の反対勢力が票を伸ばせば、改革遅延の懸念が市場で増幅するのは必至だ。
原油価格の反落も見逃せない。月初に今年初めて50ドルを超えた米原油先物は、米石油掘削リグ稼動数の増加などを受けて反落。「当面の上限は50ドル」説が出回り始めた。
原油安は景気への影響に加え、産油国政府のなりふり構わぬ資産売却が直接的な市場の脅威となる。中東各国の対日証券投資は直近の4月も7877億円の売り越し。過去最高水準の売り圧力が続いている。
(基太村真司 編集 橋本浩)