アイルランドが1921年に独立して以来、イギリス国王としては初めて、エリザベス女王が来年アイルランドを公式訪問する準備が進んでいる。1972年に北アイルランドのロンドンデリーでデモに参加していた市民を英軍が殺害した「血の日曜日」事件に関して今年6月にイギリスのキャメロン首相が謝罪したことなどが、両国の関係改善へのきっかけになったという。前回、アイルランドを訪問したイギリス国王は、エリザベス女王の祖父のジョージ5世で、1911年の戴冠式の時だというのだから、来年の訪問が実現すれば実に100年ぶりということになる。

 イギリスとアイルランドの関係と言えば、北アイルランドの帰属問題やIRA(アイルランド共和軍)のテロ活動がまず思い浮かぶ。ただ今日のアイルランドを形成する歴史上最大の事件と言えばイギリス植民地時代の19世紀に起きた「ジャガイモ飢饉」だ。

 当時のアイルランドの主要作物であったジャガイモに疫病が蔓延したことが原因で食糧難が発生し、宗主国だったイギリスが貧しい農民の救済策を打ち出さなかったことで大飢饉に発展した。1840年のアイルランドの人口は800万人を越えていたが、飢えや病気で100万人以上が死亡し、200万人以上がアメリカ、カナダなどに移住を余儀なくされた。その後の数十年でアイルランドの人口は、驚くことに1840年当時の半分に激減している。飢饉の経緯を通じて蓄積されたイギリスへの怒りは、その後のアイルランド独立運動へと繋がっていく。

 アメリカ東部のフィラデルフィアは多くのアイルランド移民が定住した場所だ。現在、市街地のデラウェア川に面した河畔には、ジャガイモ飢饉とその後のアメリカ移民の歴史を再現したモニュメントがある。祖先が経験した苦難を忘れないように、とアイルランド系アメリカ人が中心となって2003年に設置した。カトリック教徒のアイルランド系移民はプロテスタントが支配者層のアメリカ社会でも厳しい差別を受けたが、今ではアメリカ社会で最も影響力のある移民グループの1つとなっている。アメリカ史上唯一のカトリック系大統領で、ダラスで暗殺されたジョン・F・ケネディの祖先は、飢饉の頃にアメリカに移住した人たちだ。

 日本と近隣諸国の例を挙げるまでもなく、隣り合う国同士が植民地支配などの歴史的経緯から仲が悪くなるのは世界中にいくらでも例がある。それでもここまでの深刻な因縁を乗り越えることは、なかなか難しいことではないだろうか。アイルランドとイギリスがこれからどうやって未来に向けた関係を築いていくのか、日本の対外関係を探る上でも関心を引かずにいられない。

――編集部・知久敏之

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