タリバンの有力なリーダーの1人が、パキスタンとの国境に近いアフガニスタンのヌーリスタン州で殺されたとのニュースが報じられている。彼の名はマウラナ・ファズルラー。パキスタンの北西辺境州スワート地区でイスラム原理主義による恐怖政治を敷き、住民を震え上がらせていた人物だ。さらに最近ではアフガニスタンで攻撃を行っていた。

 アフガニスタンの国境警備隊が、ヌーリスタン州が拠点のタリバンと行動していたとみられるファズルラーを銃撃戦の末に殺害したという。ヌーリスタンにはパキスタンのタリバンメンバー500人ほどが政府機関などに対して攻撃を仕掛けていたようだ。

 ファズルラーといえば、昨年、パキスタン北西部ペシャワル近郊の街バンダ・ナビで見た光景を思い出す。

 イスラマバードから車で数時間をかけて移動したのだが、通り過ぎる街に溢れる男たちの多くが、長いひげを蓄えていた。これらの街はパキスタン北西部のイスラム原理主義組織の影響下にあったために、ひげを剃らない人も多かった。

 だがバンダ・ナビは違った。街に入ると、目抜き通りの両サイドには商店が並び、忙しく男たちが行き交ってた。だが彼らのほとんどが、長いひげを生やしていない。大学教授である友人が説明してくれた。「タリバンの支配地域に近いここは、みんな意図的にひげを剃っているんだ」

 当時、パキスタン政府はバンダ・ナビから北に位置するスワート地区で、タリバンの大規模な掃討作戦を行なっていた。昨年5月のことだ。つまり長々とひげを伸ばしていると、パキスタン軍によって街に逃げ込んだタリバンだと疑われる恐れがあった。実際、攻撃によって家を追われた住民の難民キャンプには、タリバンがまぎれて逃げ込んでいた。

 死亡が噂されるマウナラ・ファズルラーは、パキスタン軍の大規模掃討作戦が行なわれるまで、違法なFMラジオ電波を利用し、スワート地区などで過激なイスラム原理主義を説いていた。そこでついた名前が「ラジオ・ムッラー(イスラム聖職者)」だ。

 住人は、毎晩8時に始まるその放送を決して聴き逃すわけにはいかない。反イスラム的な行いが伝えられ、ラジオで違反者として名指しされれば、家を追われるか、死を意味した。さらにタリバンはカラシニコフ銃を手に、街をパトロール。08年には、70人の警官が首を落とされ、政府の仕事をする役人などはそれだけで処刑の対象だった。

 女性は教育を受けられないし、テレビ、DVD、歌や踊りなどはすべて反イスラム的だとみなされた。ラジオでは違反したために処刑される「容疑者」の名前が伝えられ、捕まると首を切り落とされ、広場に見せしめとして放置された。

 そして男性は決してひげを剃ってはいけなかった。反イスラム的だとして処刑の対象になったからだ。ひげの薄い人は、それを示す証明書が必要だった。

 それでもバンダ・ナビの男たちはパキスタン軍の存在を後ろ盾に、タリバンではないと証明するためにひげを剃った。そこにパキスタンやアフガニスタンでのタリバンとの闘いに鍵があるように感じる。

 パキスタンでもアフガニスタンでも、反タリバンの部族は少なくない。彼らにタリバンを排除できる大きな後ろ盾を与え、その地域を広げていくことも、タリバンと戦う上では1つの重要な手になるはずだろう。

----編集部・山田敏弘

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